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呼吸器疾患を有する肺癌患者に対する放射線療法の適応と方法 【リスクスコアを用いた治療計画で重症放射線肺炎を予防】

No.4818 (2016年08月27日発行) P.57

辻野佳世子 (兵庫県立がんセンター放射線治療科部)

山内智香子 (滋賀県立成人病センター放射線治療科科長)

登録日: 2016-08-27

最終更新日: 2016-11-04

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低呼吸機能患者や間質性肺炎・肺線維症を合併する肺癌患者に対する放射線療法にあたっては,適応の判断や照射野の設定,線量・分割の決定にいつも悩んでいます。肺癌放射線療法のエキスパートである先生は,どのように判断されているのでしょうか。また,治療後の経過観察で特に気をつけるべき点について,兵庫県立がんセンター・辻野佳世子先生のご回答をお願いします。

【質問者】

山内智香子 滋賀県立成人病センター放射線治療科科長


【回答】

肺癌では間質性肺炎・肺線維症,慢性閉塞性肺疾患などびまん性肺疾患の合併が多く,特に照射野が広くなる局所進行肺癌に対する根治目的の同時性化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy:CCRT)の適応に迷う症例にしばしば遭遇します。また近年は手術対象となる早期肺癌にも根治の期待できる定位放射線治療の選択肢があり,手術適応の難しい低肺機能患者の紹介を受けることも増加しています。肺癌としての予後・治癒の可能性と,有害事象のリスクのバランスを考慮して治療適応・治療法を判断することが求められますが,一律の基準はないのが現状です。

(1)放射線肺炎(RP)に注意
このような患者において最も懸念される放射線有害事象が,放射線肺炎(radiation pneumonitis:RP)です。RPは,時に照射範囲外にも広がり致死的となることもあるため注意が必要であり,肺疾患合併患者では発症頻度が高いとされています。特に間質性肺炎・肺線維症を有する患者においては,RPを契機として急性増悪をきたす場合があり,より慎重な適応判断を要します。

RPは照射される線量と容積の両者に依存し,現在の標準である三次元放射線治療計画では,線量容積ヒストグラム(dose-volume histogram:DV
H)から導かれるパラメータであるV20(20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合)などを用いて正常肺への線量制約を行うことにより,発症を抑制できることが多くの研究により示されています1)。局所進行肺癌に対して通常分割照射で60Gy程度のCCRTを行う場合には,全肺に対するV20を30~35%以下とすることにより有症状RPの発症を20%未満に抑えることができるとされています1)。しかし,肺疾患合併患者においてはその閾値がより低く,より早期に発症し重症化することが多い傾向にあり,可及的に照射野を小さくすることが必要です。

予防的な縦隔リンパ節領域への照射を省略して腫瘍部のみへの照射を行うinvolved field radiotherapyや,可能であれば息止め照射や呼吸同期照射を行うことで呼吸性移動のための照射野の拡大を少なくすることができます。さらにCCRTが困難な場合は,化学療法を先行して縮小した腫瘍に対して放射線治療を行う順次化学放射線療法や,放射線単独療法も考慮します。

(2)重症RPの発症リスクスコア
また,放射線治療以外の治療因子,患者因子なども総合的に判断して治療適応を判断することが重要です。当院でCCRTを施行した局所進行非小細胞肺癌症例の検討では,V20高値とともに,VS5(5Gy以上照射されない正常肺の実容積)低値,背景肺の肺線維化(蜂巣肺)を認める場合,高齢の4因子が重症RPの発症と相関しており,これら4因子から重症RPの発症リスクスコアを提案しました2)。このリスクスコアを8以下にするような治療計画を行うことにより,重症RPの発症を抑えることができる可能性があると考えています。

以上のように慎重な適応判断と,放射線治療計画の工夫に加えて重要な点が経過観察です。特に治療後早期に発症するRPは重症化することが多いため,終了後3~4カ月程度までは特にこまめな経過観察を行い,RPが出現してくると照射野外へ進展していないか慎重に経過をみます。照射野外に広がる重症なRPは間質性肺炎の急性増悪に対する治療と同様の迅速かつ濃厚な治療が必要となり,そのような対応が可能な施設で治療を行い経過観察することが望ましいと考えます。

【文献】

1) Marks LB, et al:Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010;76(3 Suppl):S70-6.

2) Tsujino K, et al:J Thorac Oncol. 2014;9(7):983-90.

【解説】

辻野佳世子 兵庫県立がんセンター放射線治療科部

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