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非対称な裂型を持つ両側唇裂症例への口唇形成術 【まず両側唇裂としての手術か片側唇裂としての手術かを考える】

No.4817 (2016年08月20日発行) P.62

田崎幸博 (北九州市立八幡病院形成外科主任部長)

登録日: 2016-08-20

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

両側唇裂に対する口唇形成術はいまだに困難が多い手術です。一方,唇裂を扱う形成外科医にとっては非常に挑戦的な手術でもあります。現在,両側唇裂に対する口唇形成術は一期的な手術が主流になってきていると思います。しかし,非対称な裂型を持つ両側唇裂症例に対する手術方針には多くの議論が残っています。特に片側が完全唇顎口蓋裂で対側が瘢痕型唇裂である場合,二期的に行うのがよいのか,一期的に行うほうがよいのか,私も非常に迷いながら診療しています。非対称な裂型を持つ両側唇裂症例への口唇形成術に対してどのような方針で治療にあたるのがよいのでしょうか。長期の成績からみた現在の考え方を,北九州市立八幡病院・田崎幸博先生にご教示頂きたいと思います。
【質問者】
今井啓道:東北大学形成外科准教授

【A】

両側唇裂の裂型が非対称的な症例に対しては,まず,両側唇裂としての手術を行うのか,片側唇裂としての手術を行うのかを考えます。当科では,軽症な側の裂の程度によってどちらかを選択するようにしています。たとえば一側が完全唇裂で,対側が不完全唇裂であれば,両側唇裂としての一期的な手術(当科ではDeHaan変法)を行いますが,軽症な側が痕跡唇裂の場合は,完全唇裂の側への片側唇裂手術(当科では小三角弁法)を行い,これに痕跡唇裂の手術を一期的あるいは二期的に加えます。
特に,軽症な側の口輪筋が裂を越えてどれだけ人中部に入り込んできているかが選択のポイントになります。もし人中部にまで十分な筋層があれば,片側唇裂としての手術を選択することで,人中部の筋層を活用した再建が可能になります。当科では人中部の筋層を2層にわけて深層で人中窩の牽引を,浅層で人中稜の隆起をつくるなどしていますが,より自然な口唇の形状を形成することが可能になります。一方で,もし軽症な側も筋の異常走行があって,裂を越えて人中部に十分到達していない場合は,人中弁を挙上して両側の外側唇の筋層をできるだけ中央まで寄せて縫合する両側唇裂としての手術が必要となってきます。
筋の走行以外の要素として,中央唇の組織量が不足している場合は,両側の外側唇から中央唇に組織を補充することが必要になり,これには基本的に両側唇裂の手法を用いますが,重症な側に片側唇裂に準じた手術を行って,軽症な側に一期的あるいは二期的に組織を補充する処置を加えるという方法も想定でき,組織の不足している量や非対称の程度によって再建方法を考えます。
片側唇裂の手術を選択した場合,対側の軽微な側の手術を一期的に行うか,二期的に行うかも判断のわかれるところです。一期的に行ったほうが計測やデザインが決めやすく,手術時の左右のバランスも取りやすいメリットがありますが,非対称的な手術の経時的な影響は予想が困難なところもあります。あまり目立たない痕跡唇裂の場合は,そこにメスが入ることを親が不安に思うこともあるため,重症側への片側唇裂の手術のみを行い,痕跡側は経過観察とすることも多いですが,ほとんどの場合は,結果として手術を行った側のほうが目立たなくなるため,親も納得の上で痕跡側の修正を二期的に行うことができます。この場合の初回手術では,後の痕跡唇裂の術後を想定して,計測やデザインを行う必要があります。

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