【Q】
酩酊時の性交渉妊娠について。飲酒時の性交渉で妊娠に至るような状況は多いと推察されますが,以下の点について教えて下さい。
(1) 精液中へのアルコールの移行はどのくらいですか。
(2) 性交から受精までは時間がかかるため,アルコールの影響はほとんどないのでしょうか。
(3) アルコールが排卵環境に及ぼす影響はどの程度ですか。
(兵庫県 K)
【A】
妊娠中の女性が飲酒すると胎児が影響を受けることは明らかですが,酩酊時の性交渉から妊娠に至った場合,アルコールが胚や胎児の有害事象の原因になるという科学的根拠は示されていません。
(1)精液中へのアルコール移行
エタノールや代謝物アセトアルデヒドの精液中への移行性を調べた報告は見当たりませんが,単純拡散で移行すると考えられます。中等度酩酊時の血中アルコール濃度は0.1~0.15%(1.0~1.5
mg/mL)とされています。
血中アルコール濃度が1.0mg/mLのとき,精液中濃度も1.0mg/mLに達すると仮定すると,精液の容量を5mLとして,5.0mgのエタノールが女性の腟内に入ることになります。すべてのエタノールが腟壁から吸収されると仮定しても,女性の血液量を4000mLとした場合,女性の血中濃度は最大で1.25μg/mLにしかなりません。
このように考えると,精液を介する女性の曝露はごく微量であり,女性や胎児にとって意味があるとは考えられません。
(2)精子や受精に対するアルコールの影響
アルコールやアセトアルデヒドには遺伝毒性はないとされており,精子形成過程の曝露による影響はないものと考えられます。精子になるまでの形成期間はおよそ74日とされ,射精前に既に精子となって蓄えられています。したがって,男性に投与された薬剤等が精子に影響するとすれば受精前約74日以内ですが,射精の1~2日前の曝露は影響しないと考えられています。
また,女性が受胎時にアルコールを飲んでいたとしてもすぐに代謝されるので,胎児の器官形成やその後の発達に影響は及びません。
(3)排卵環境に及ぼすアルコールの影響
性交時に女性が酩酊状態だったとしても,既に発育した卵胞の排卵に影響することはありません。酩酊時の性交渉における最も大きいリスクは,望まない妊娠をしてしまうことであると言えます。