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「乳癌診療ガイドライン」放射線療法分野の特色と変更点【2015年版では所属リンパ節照射などで改訂が行われている】

No.4813 (2016年07月23日発行) P.58

山内智香子 (滋賀県立成人病センター放射線治療科科長)

登録日: 2016-07-23

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

乳癌学会の診療ガイドラインは読者からの関心も非常に高く,エビデンスの刷新も早いのですが,今回2年ぶりに改訂された乳癌診療ガイドラインの放射線療法分野における特色と注意すべき変更点はどのようなものでしょうか。乳癌診療ガイドライン放射線療法小委員会委員長である滋賀県立成人病センター・山内智香子先生のご教示をお願いします。
【質問者】
西岡明人:高知医療センターがんセンター長

【A】

日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン2015年版」(文献1)について,放射線療法の主な改訂ポイントをお示しします。
まず,最近のトピックスの1つ所属リンパ節照射についてです。腋窩リンパ節転移が4個以上の場合の所属リンパ節照射の適応については,ある程度コンセンサスが得られています。転移が1~3個の場合の所属リンパ節照射については,十分なコンセンサスは得られていません。乳房温存術後の場合,推奨グレードC,乳房切除術後では推奨グレードBで,2013年版から推奨グレードに変更はありませんが,新たな知見をふまえて解説していますので,ガイドラインをご一読下さい。
所属リンパ節の中でもその有効性について議論のある胸骨傍リンパ節については,乳房温存術後で推奨グレードの変更を行い,乳房切除術後では新規のCQ(clinical question)として取り上げています。いずれの場合でも臨床的・病理学的に転移を認める場合には推奨グレードB,転移を認めない場合にはC1となっています。
ガイドラインでは,もう1つのトピックスである家族性・遺伝性乳癌についても取り上げています。乳房手術後放射線療法の相対的禁忌として,患側上肢を挙上できない患者,活動性の強皮症や全身性エリテマトーデスなどに加え,Li Fraumeni症候群を追加しています。同症候群は,放射線治療による二次性悪性腫瘍のリスクがきわめて高い遺伝性疾患であり,このような患者では手術方法や放射線療法の適応に関して十分な検討がなされるべきです。
BRCA遺伝子変異を持つか,強く疑われる患者に対する乳房手術後放射線療法についても,新たにCQを追加しました。乳房切除術後であれば変異の有無に関係なく,臨床的適応に従って放射線療法を行う(推奨グレードB)となっています。一方,乳房温存術の場合,術式そのものが慎重に検討されるべきであるが,乳房温存術が施行された場合では,放射線療法を考慮してよい(推奨グレードC1)となっています。
その他の新CQとして,乳房切除術後にエキスパンダー挿入中の放射線療法について(推奨グレードC2),StageⅣ乳癌に対する原発巣への放射線療法(推奨グレードC1, C2)も追加しました。また,有痛性骨転移に対する放射線療法については,8Gy/1回照射(推奨グレードB),脊髄圧迫例や切迫骨折例に対する分割照射(推奨グレードB),疼痛再増悪時の再照射(推奨グレードC1),骨指向性放射線医薬品療法(推奨グレードC1)というように,状態に応じてCQを細分化しました。
残念ながら,ここでは個々の詳説はできませんので,ぜひガイドラインをご一読下さい。

【文献】


1) 日本乳癌学会:乳癌診療ガイドライン2015年版.
[http://jbcs.xsrv.jp/guidline/]

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