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無症候性微小甲状腺癌の経過観察での重要点【low-risk微小癌は超音波検査による経過観察を年に1~2回行う】

No.4810 (2016年07月02日発行) P.56

伊藤康弘 (隈病院外科医長/ 治験・臨床試験管理センター科長)

登録日: 2016-07-02

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

人間ドックや頸動脈エコーの普及によって無症候性の甲状腺癌が発見される機会が増えました。微小乳頭癌であれば治療を急がなくてもよいという選択肢もあるようですが,その根拠を。また,経過観察の例外となる因子や経過観察上の重要点について,隈病院・伊藤康弘先生のご教示をお願いします。
【質問者】
小野田尚佳:大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学 准教授

【A】

腫瘍最大径が1cm以下で画像上リンパ節転移や遠隔転移がなく,周囲に浸潤しない乳頭癌(low-risk微小癌)は,もともと高率に病理解剖で発見されています。また,1994年に検診にて小規模ながら超音波と超音波ガイド下細胞診で30歳以上の女性の3.5%に発見されたという報告があります。これは,当時の甲状腺癌罹患率の約1000倍に相当します。それらのデータをもとに,当院では1993年からlow-risk微小癌の経過観察を始めましたが,10年経過観察しても3mm以上増大する症例は8%,新たにリンパ節転移が生じる症例は2%にとどまっています。そして興味深いことに,臨床癌ならば予後不良とされる高齢者ほど,low-risk微小癌は進行しにくいというデータが出ています。さらにlow-risk微小癌が経過観察中に進行したとして,その段階で手術を施行しても再発する確率は(残存甲状腺以外は)ゼロに等しく,決して手遅れにはなりません。
一方,いくらエキスパートが手術を行ったとしても,甲状腺の手術は反回神経や上喉頭神経外枝の損傷,永続性の副甲状腺機能低下症といった,QOLに差し支える合併症が起きる確率はゼロにはなりません。これらのことから,low-risk微小癌は手術よりも経過観察をfirst choiceとすべきであり,そのほうが患者にとって利益になると私たちは考えております。
ただ,これには例外もあり,画像上,腫瘍が気管にべったりとへばりついているような症例や反回神経の走行経路にあり,かつその間に正常甲状腺組織がみられないような症例は,気管や反回神経に既に浸潤があるか,近い将来浸潤する可能性が高いと考え,経過観察は行わず,すぐに手術を勧めるべきであると考えます。また,滅多にありませんが細胞診で高細胞型などの悪性度の高いvariantが疑われたときも手術が望ましいでしょう。
経過観察の具体的な方法としては,基本的に超音波検査で十分であると思われます。腫瘍の最大径および位置,そして新たにリンパ節転移が出現していないかどうかを1年に1~2回きちんとチェックすることが肝要です。甲状腺内に新たな病変が出現した場合は,それもきちんとチェックしますが,多発病巣が出現したというだけでは私たちは手術の適応とはしておりません。甲状腺癌の家族歴も同様です。
low-risk微小癌の経過観察は,日本から世界に発信された貴重な情報であると自負しております。次回の米国甲状腺学会(American Thyroid Association:ATA)ガイドラインにもそれは盛り込まれる予定であると伺っておりますが,実際に米国のいくつかの施設でも同様の試みが始まっているのは喜ばしいことです。

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