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■NEWS 原子力事故が発生した場合「甲状腺集団スクリーニングを推奨せず」―IARCの専門家が講演

No.4952 (2019年03月23日発行) P.18

登録日: 2019-03-11

最終更新日: 2019-03-11

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世界保健機関国際がん研究機関(IARC)のヨアキム・シュッツ氏(環境・放射線部門長)は7日、環境省が都内で開いたシンポジウムで講演し、今後、原子力事故が発生した場合には、「甲状腺集団スクリーニングを実施することは推奨しない」と提言した。

IARCは昨年、「原子力事故後の甲状腺健康モニタリングの長期戦略」を公表し、この中に2つの提言を盛り込んだ。

第一の提言は「原子力事故後に甲状腺集団スクリーニングを実施することは推奨しない」、第二の提言は「原子力事故後、よりリスクの高い個人(胎児期または小児期または19歳未満の思春期に100500mGy以上の甲状腺線量を被ばくした者)に対して長期のモニタリングプログラムの提供を検討する」というもの。シュッツ氏は講演で2つの提言について解説した。

不利益が利益を上回り、過剰診断の問題が生じる可能性

それによると、成人の甲状腺がんは、一般に予後は非常に良好であり、死亡率は低く、スクリーニングでは臨床的に重要となるがんだけではなく、良性の甲状腺結節や無症状のまま留まる甲状腺がんも見つかる。無症状の甲状腺がんの検出が増えると、見かけ上、罹患率が増加するが、それに見合う死亡率の低下は見られない―とした。その上で、「無症状の成人集団に対するスクリーニングは、不利益が利益を上回るため、推奨されない」と説明した。

小児と思春期の子どもたちの甲状腺がんについても、小児患者の予後は非常に良好で、チェルノブイリの放射性降下物に曝露した小児期と思春期の子どもたちでも、甲状腺がんの疾患特異生存率は9899%だったと紹介。その上で、「小児期と思春期の子どもたちの集団に対して、リスクのレベルを考慮せずにスクリーニングを行えば、明白な公衆衛生上の利益がないまま、過剰診断の問題が生じることが予想される。したがって、原子力事故後の甲状腺集団スクリーニングを推奨しない」と指摘した。

■「提言はチェルノブイリや福島の知見を得て作成した、将来に対するもの」

一方、「甲状腺健康モニタリング」については、よりリスクの高い“個人”に向けて提供される選択的活動であり、本人は疾患を早期に発見して進行度の低いうちに治療する利益を得る目的で検査を受けるか否か、また、その方法を選ぶことができると説明した。

シュッツ氏は提言について、「チェルノブイリや福島の知見と教訓を得て作成したもので、過去の原子力事故後の対応を評価するものではない。将来、世界のどこかで起きる可能性がある原子力事故後に向けた提言だ」と強調。さらに、過去の原子力事故について「原子力事故は起きない―ということはなく、原子力事故に備える必要があると語っている」と指摘し、事前に「甲状腺健康モニタリング」について準備を行う必要性を強調した。

「福島では事故が隠蔽されず、すぐに放射線防護策が取られたことで、最大被ばく線量は数十mGyで収まった。最大被ばく線量が50Gyになったチェルノブイリは事故を隠ぺいする動きがあり、放射線防護措置が取られなかったことが日本と顕著に異なる」と指摘するヨアキム・シュッツ氏(左)

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原発事故と甲状腺モニタリング[福島リポート(28)]
No.4944 (2019年01月26日発行) P.24
山下俊一 (福島県立医科大学副学長/長崎大学学長特別補佐)

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