株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

早期乳癌に対する根治的放射線療法の可能性【KORTUCを用いた非手術での乳房温存療法を推進】

No.4808 (2016年06月18日発行) P.62

小川恭弘 (兵庫県立加古川医療センター院長)

登録日: 2016-06-18

最終更新日: 2016-12-16

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

現在,転移のない乳癌の標準治療の柱は手術ですが,中には乳房に一切メスを入れられたくない患者も存在します。このような患者に対する治療法について,兵庫県立加古川医療センター・小川恭弘先生のご教示をお願いします。
【質問者】
芝本雄太:名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野教授

【A】

確かに,乳癌の患者で,手術を頑強に拒否される人がいます。また,手術を嫌がり,病院に行かずに長い間我慢し,進行乳癌になってしまっている人もいます。わが国で1年間に7万人以上と推定される乳癌の新規罹患者の中で,自ら手術を望む人はむしろ少ないものと思われ,やはり患者のニーズから言えば,非手術的な乳癌治療の確立が強く求められていると思われます。乳房に一切メスを入れられたくない乳癌患者の求めに応じて,私たちが推進しているのは,Kochi Oxydol-Radiosensitization Treatment for Unresectable Carcinomas(KORTUC)を用いた非手術での乳房温存療法です。
KORTUCは,オキシドール(3%の過酸化水素水)とヒアルロン酸ナトリウムの混合液を放射線治療の直前に腫瘍に直接注入するという,単純な放射線増感法です。その基礎は,ヒト末梢血リンパ球の放射線高感受性をモデルとしており,種々の放射線抵抗性腫瘍に対して,細胞内の抗酸化酵素ペルオキシダーゼ/カタラーゼを失活させて酸素を発生させれば,ほとんどすべての癌を放射線高感受性に変換できるという自らの仮説ならびにその後の実験的検証に基づいております(文献1~3)。
乳癌病巣全体にオキシドールの効果を行き渡らせるために,オキシドールの腫瘍内への局注が必要です。したがって,組織の抗酸化酵素ペルオキシダーゼ/カタラーゼによる過酸化水素の迅速な分解・拡散を遅らせるとともに局所の疼痛を緩和する目的で,ヒアルロン酸ナトリウムを混和して用いております。
2014年3月末までに,この腫瘍内局注法によるKORTUCを,Ⅰ, Ⅱ期乳癌72例に施行しました(文献1) 。もちろん,非手術という点以外に,全身補助療法は最新のガイドラインに沿った治療であり,患者の5年での全生存率,無病生存率,局所制御率は,それぞれ100%,97.1%,97.1%と良好です。この治療は,神戸低侵襲がん医療センターのほかに大阪医科大学(新保ら),東京放射線クリニック(柏原ら),長崎県島原病院(小幡ら)などでも行われています。
KORTUCの原材料はオキシドールとヒアルロン酸で,安価であり,かつ,これらの薬剤の腫瘍内局注は健康保険の適応外使用であり,その製剤化にあたって,わが国の製薬企業の関心は薄いのが現状です。したがって今後,私たちは英国での臨床試験を推進して製剤化をめざし,KORTUC注射キットを作製してくれる製薬企業と協調して,このKORTUC治療が早期乳癌の根治的な増感放射線療法として,世界的にも幅広く利用されるように推進していく予定です。

【文献】


1) 山下 孝, 監, 小川恭弘, 編:新しい酵素標的・増感放射線療法KORTUCの基礎と臨床. 篠原出版新社, 2015, p1-184.
2) Ogawa Y, et al:Int J Oncol. 2011;39(3):553-60.
3) Ogawa Y, et al:Int J Mol Med. 2003;12(6):845-50.

関連記事・論文

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top