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生殖教育の変遷【教育の欠如による誤認が妊娠機会逸失などの弊害に】

No.4828 (2016年11月05日発行) P.51

杉浦真弓 (名古屋市立大学産科婦人科教授/不育症研究センター長)

登録日: 2016-11-03

最終更新日: 2016-10-31

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妊娠の高年齢化が止まらない。1985年当時は35歳以上の高齢妊娠は7.7%で,現在の31.6%ほど高率ではなく,ダウン症候群の増加が強調されていた。高齢妊娠では出生前診断を受ければよいということで,不妊症や流産によって妊娠継続が難しくなることは教育されてこなかった。2000年代には性感染症や10歳代の中絶の増加が問題視された。

家庭科や保健体育の教科書には1994年のカイロ女性会議で提唱された「reproductive rights」や「birth control」について記載された。発展途上国では,女性が出産の自己決定権を持たない性差別が深刻であり,これについて議論が行われたが,この言葉によって妊娠がいつでも可能なものとの誤解を刷り込んだ可能性はないだろうか。

平均25歳の独身女性を対象に本学が実施した調査では,「あなた自身いくつまで自然妊娠可能か」という質問に対し,37%が「45~60歳」と答えた。わが国での生殖教育の欠如が,現在深刻な結果をもたらしている。

医学部においても生殖教育が行われてこなかった。過日,慢性疾患の薬物治療のために主治医から避妊を指導され,それを遵守した43歳の患者が心配になって来院した。避妊を継続した日々は戻らない。わが国では1960年頃に起きたサリドマイド薬害の影響で,妊娠中の投薬指導や避妊指導が厳密に行われている。しかし,慢性疾患を持つ女性が挙児を希望したら,薬剤の選択を含め可能性とリスクの情報を提供できる。

学校だけでなく,医学教育においても生殖教育が重要である。

【解説】

杉浦真弓 名古屋市立大学産科婦人科教授/不育症研究センター長

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