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外リンパ瘻の診断におけるCTP検査の実際

No.4735 (2015年01月24日発行) P.57

池園哲郎 (埼玉医科大学耳鼻咽喉科教授)

登録日: 2015-01-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

めまいや難聴をきたす疾患として,外リンパ瘻は非常に重要な疾患の1つですが,一方で,くしゃみや鼻かみ,鼓膜の外傷などの誘因がはっきりしない場合には診断に苦慮することも少なくありません。診断のためには,顕微鏡や内視鏡で瘻孔を確認することが必要とされてきましたが,患者さんへの侵襲も少なくありませんし,一般診療所では困難です。
近年,内耳特異的蛋白(cochlin-tomoprotein:CTP)を中耳から検出することが,外リンパ瘻の診断基準に加えられたと聞きました。侵襲の少ない検査として,大いに期待しています。CTP検査の有用性とその具体的方法について,埼玉医科大学・池園哲郎先生のご教示をお願いします。
【質問者】
松原 篤:弘前大学医学部耳鼻咽喉科教授

【A】

(1)外リンパ瘻の病態
聴覚・平衡覚が正常に機能するために,内耳の「内リンパ,外リンパ」は重要な働きをしていますが,このリンパ腔と周囲臓器の間に瘻孔が生じ,生理機能が障害される疾患が外リンパ瘻です。通常瘻孔が生じる部位は,内耳窓(前庭窓,蝸牛窓),microfissureなどで,そこから外リンパが漏出すると症状が増悪,変動します。
臨床の現場で,内耳性めまい症,原因不明のめまい症,メニエール病,突発性難聴,進行性や再発性の難聴と診断されている特発性疾患の中に,一定の割合で外リンパ瘻が含まれていることが判明しつつあり,現在全国的な調査が進んでいます。
(2)発症の誘因・原因
中耳圧,脳脊髄圧の上昇が誘因となります。有名なものとして,鼻を強くかんだときに急にポンと音がしてめまい・難聴が発症する鼻かみ型があります。ほかにもダイビング,飛行機搭乗,スポーツ,くしゃみ,咳,力み,などの日常のありふれた動作により発症することが知られています。さらに頭部外傷,中耳外傷,炎症,奇形なども,原因となります。くしゃみや鼻かみ,鼓膜の外傷などの誘因となるエピソードがないidiopathic症例もあります。
(3)新しい外リンパ漏出の診断マーカーCTP
従来は中耳を顕微鏡で観察し外リンパ漏出の有無を判断していましたが,この診断法はきわめて主観的で,総量150μLしかない外リンパの漏出を確認できるか疑問視されていました。特に米国やカナダでは,この疾患そのものを否定する医師が多くいます。
今までは診断バイオマーカーがなかったことがこの論争の大きな原因でしたので,私たちは新たな診断マーカーを求めてプロテオーム解析などを行い,遺伝性難聴の原因遺伝子COCHの蛋白産物のアイソフォームを4つ同定,外リンパに特異的に発現しているCTPを見出しました。その後10年以上にわたりCTPについて基礎・臨床研究を重ねてきましたが,2年前にやっと臨床診断に使えるELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)キットが完成しました。
検討を重ねれば重ねるほど,診断マーカーとして理想的な蛋白であることが判明してきました。CTPは室温で十数日間放置したり,凍結融解しても影響を受けにくい安定な蛋白です。さらに最近,健康成人40人の血液をELISAで検査したところ,CTPの外リンパ発現特異性がさらに裏づけられました。炎症や感染があっても偽陽性が出にくいこともわかっています。診断能も臨床実用レベルに達し,厚生労働省研究班作成の診断基準に採用されました。
(4)外リンパ瘻の鑑別診断と治療法
突発性難聴やメニエール病などの内耳性難聴・めまい疾患のほとんどは原因不明で症候診断です。ですから,これらの症状を呈する原疾患として,外リンパ瘻が想定されます。研究当初は,主に変動・進行性難聴の原因が外リンパ瘻と考えられていましたが,突発性難聴症例からもCTPが検出されています。
さらに,めまいに関しては従来の常識を覆す結果が得られています。たとえば,突発性難聴の後に聴力が治ったのにめまいが遷延する場合や,両側聴力は正常だが慢性の難治性めまいを呈する症例などからCTPが検出されています。症状は,ふらふら感,歩行時の不安定感,よろよろ感が主で,立位,坐位で増悪し,臥位では改善するというものです。頭痛は伴いません。
治療は通常の内耳性難聴・めまいに準じた保存治療が有効で,治療に反応しない場合,遷延する場合には内耳窓閉鎖術を行います。私たちの手術症例では約半数の難聴は改善し,めまいはほとんどの症例で改善します。数カ月にわたる難治性めまいが劇的に改善した症例も経験しています。

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