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多発性内分泌腫瘍症2型の褐色 細胞腫における副腎皮質機能の扱い

No.4721 (2014年10月18日発行) P.61

今井常夫 (愛知医科大学乳腺・内分泌外科教授)

登録日: 2014-10-18

最終更新日: 2016-11-09

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【Q】

多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)2型では両側の副腎に,同時性あるいは異時性に褐色細胞腫が生じます。放置すれば生命予後にも関わり,確実な治療が望まれますが,両側副腎全摘術後,患者さんは生涯,副腎皮質ホルモン薬を服用することになり副腎不全の懸念もあります。そこで腫瘍が小さく,臨床症状も強くなければα遮断薬内服による非手術的管理も可能かと考えています。また,副腎全摘とせずに副腎の一部を残して皮質機能の温存を図る試みもあると思います。愛知医科大学・今井常夫先生はどのように対処しておられるでしょうか。
【質問者】
岡本高宏:東京女子医科大学内分泌外科教授

【A】

わが国のMENコンソーシアムの集計結果では,多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の50%以上が両側褐色細胞腫手術を受けていました。しかし,両側発生の頻度がいくら高くても,副腎褐色細胞腫は甲状腺髄様癌と異なり予防的副腎摘出は行いません。甲状腺全摘術後の甲状腺ホルモン補充は安全に行えるのに対し,ご指摘のように,副腎全摘後の副腎皮質ホルモン補充は,内服中断があれば常に急性副腎不全(Addisonian crisis)の危険があり,生命を脅かすからです。
MEN2に発生する褐色細胞腫は悪性褐色細胞腫の報告は少なく,海外の報告は2~5%程度,わが国のMENコンソーシアムの集計結果はさらに低く,1%程度でした。したがって,MEN2に発生した褐色細胞腫の術式を考える上で悪性腫瘍を念頭に置いた術式選択はしておりません。
一側の副腎褐色細胞腫の治療は最初の診断がついた時点で行います。褐色細胞腫を放置すると生命に関わる合併症をきたすことがあるからです。MEN2で小さい褐色細胞腫が残った副腎に発見されたとき,あるいは初回診断時に両側に腫瘍があり,かつ小さい褐色細胞腫だったときに手術をするかしないか,部分切除か全摘か迷います。
わが国のMENコンソーシアムの集計結果で,MEN2B病型となるRETコドン918変異はほとんど100%に若年で副腎褐色細胞腫が発生していました。MEN2A病型となる変異のうち,コドン634変異は年齢とともに褐色細胞腫浸透率が上昇し,70歳で80%以上に副腎褐色細胞腫が発生していました(図1)。したがって,これらの変異を有する場合,α遮断薬内服による非手術的管理や副腎部分摘出術という治療は一時的なもので,長期的には褐色細胞腫は増大し副腎摘出術が必要となる可能性が高くなります。
一方,そのほかのRET変異の場合,副腎褐色細胞腫浸透率は低く,50歳過ぎの発生は非常に少ないという結果でした。したがって,コドン918と634以外の変異では,非手術的管理や副腎部分摘出術で長期間あるいは終生良好に管理できる可能性があると思います。年齢やRET遺伝子変異の部位を参考に,腫瘍の大きさ,腫瘍径の左右差,MIBG(meta-iodobenzylguanidine)シンチ集積の強さの左右差,既往歴,合併症などを総合して患者さんごとに治療方針を決めています。

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