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認知症患者の誤嚥性肺炎と苦痛緩和策

No.4707 (2014年07月12日発行) P.59

紅谷浩之 (オレンジホームケアクリニック院長)

登録日: 2014-07-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

誤嚥性肺炎を繰り返す寝たきりの高齢アルツハイマー型認知症患者。FAST(Functional Assessment Staging)分類stage7-(d)(高度のアルツハイマー型認知症で,着座能力が喪失している状態)。家族は胃瘻造設や高カロリー輸液を拒否,自宅で看取りたいと希望しています。このような患者さんが肺炎を発症したときの在宅での対応はどのようにされていますか。家族とよく相談し,本人の生き方もふまえての結論になると思いますが,在宅終末期ケアの方向性,特に苦痛緩和を目的とした具体的なケアについて,オレンジホームケアクリニック・紅谷浩之先生に。
(1)発熱に対して抗菌薬は使用しますか。
(2)経口摂取は継続しますか,それとも中止しますか。継続するのであればどのような食材を与えますか。輸液は行いますか。行うとすればどのような方法でしょうか。
(3)低酸素血症を伴う場合,在宅酸素療法を導入しますか。呼吸困難に対し,必要であれば塩酸モルヒネやステロイドを使用しますか。また,喀痰が多い場合,輸液の減量や中止を行いますか。さらに必要であればハイスコRなどの抗コリン薬を用いますか。
【質問者】
鈴木 央:鈴木内科医院副院長

【A】

アルツハイマー型認知症のFAST分類stage7ということで,誤嚥性肺炎を繰り返す終末期と考えます。がんの緩和ケアとは異なり,疼痛は少ないため,誤嚥性肺炎による発熱や呼吸苦のケアが重要となります。医療介入だけでなく,家族を含めたチームで行うケア的アプローチが有効であり,在宅で本人・家族の想いを叶えてあげたい事例です。
抗菌薬はこの段階では苦痛を減らす効果はあまり期待できず,注射にせよ内服にせよ投与に伴う苦痛もあるので,多くの場合,それまでの指示を中止します。発熱に対するクーリングや坐薬など,苦痛軽減のための対応は積極的に行います。
経口摂取が困難で,口渇が強い場合は輸液も考慮します。負荷が少なく家族が管理しやすい皮下輸液を選択しますが,痰量増加や浮腫増悪することも多く,口渇が苦痛となっている場合に限ります。この時期の苦痛の原因として「痰量増加」「浮腫」が「口渇」よりも多いので,輸液は行っても少量にとどめます。食事を摂れていない状態を見守る家族の心理的負担軽減のために少量輸液を継続する場合もありますが,苦痛の評価および家族との話し合いを続けることが重要です。
呼吸困難に対しては,在宅酸素やステロイドを使用し,必要であれば塩酸モルヒネも考慮します。本人の自覚症状として呼吸苦が強くない(呼吸数増加や苦痛表情がない)場合は,SpO2値が低下していても導入しなくてよいと考えています。
前述のように,痰量増加がみられるときは,輸液を減量・中止することで苦痛がかなり減ることが多いので,家族にも十分説明の上,減量・中止するのがよいと思います。唾液も含め咽頭貯留が多い場合は,抗コリン薬の使用も考慮します。保険適用ではありませんが,アトロピン点眼液の舌下投与も分泌量を減らす効果があります。
いずれも家族,訪問看護師,薬剤師,訪問介護員,ケアマネジャーなどと情報共有しておくことで,すばやい対応が可能になるため,多職種連携をしっかり行いたいところです。
経口摂取は,誤嚥による苦痛に繋がるため安易に継続することは躊躇しますが,食べることの喜びや楽しみを優先させることも重要です。FAST 7-(d)であれば,口に食事を運ぶと口を動かし,美味しいと笑顔がみられることもあります。そのような反応は家族の満足にも繋がるため,その点でも継続を考えたいと思います。
最近は嚥下障害対応の食材も種類が豊富にあり,言語聴覚士(speech-language-hearing therapist:ST)や管理栄養士にも介入してもらい,最適なものを選択したいところです。在宅での事例を多く経験している管理栄養士がいれば,嚥下状態だけでなく,食事の好みにも配慮した食材や料理の提案も期待できます。
本人の意思を確認できるものがあればそれを軸に,なくてもその方のこれまでの語りや生き方をふまえて家族との話し合いを重ねることが最も重要です。丁寧な意思決定のプロセスそのものが,家族や本人のケアにも繋がることを常に意識したいと思っています。

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