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B型インフルエンザ罹患後にA型インフルエンザ予防接種を行うタイミングは?

No.4800 (2016年04月23日発行) P.59

河合直樹 (河合内科医院院長)

池松秀之 (日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 リサーチディレクター)

登録日: 2016-04-23

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

32歳,介護職員,女性。受診前日発熱39℃と頭痛。受診時,インフルエンザ簡易抗原検出キットにてB型陽性,A型陰性。タミフル5日分処方。本例は当年のインフルエンザワクチン未接種です。A型インフルエンザ予防のため接種は必要と思われますが,そのタイミングはいつがよいのでしょうか。 (大阪府 M)

【A】

病院や高齢者施設などでは,院内感染対策の観点からも,ハイリスク患者や入所者のほかに,職員へのインフルエンザワクチン(以下,ワクチンと略)の接種が推奨されており,ご質問にあるような介護職員では,あらかじめ任意の予防接種をしておくことが望まれます(文献1)。
ただしワクチン接種に関しては,実際に接種してから抗体が有意に上昇するまでには少なくとも2~3週間かかり,かつ有意な抗体上昇が維持される期間は半年程度と考えられています。したがって,ワクチンは流行シーズン前の接種(通常10~11月,遅くても12月中)が基本となっており,流行期(1月以降)に入ってからの接種については若干議論のあるところです。
ご質問には2つの論点があると思います。1点目は,B型の罹患後にA型の予防のためのワクチン接種が必要か否かについて,2点目は,実際にインフルエンザ罹患後にワクチン接種する場合,罹患後のどのタイミングで接種したらよいかです。
まず1点目,この方がB型に罹った時期は質問からは不明ですが,一般的にはB型の流行時期は2~5月頃と,A型の流行時期(12月下旬~3月頃)よりも遅いことが多いので,A型に罹ってからB型の予防にワクチンを接種するケースはあっても,B型に罹ってからA型の予防のためにワクチンを接種するケースは少ないと考えられます(文献2)。
ただし,時としてA型の流行開始前の10~11月頃にB型に罹るケースもありますので,このようにA型の流行開始時期よりも前にB型に罹った場合,A型の予防のためにワクチンを接種することは意味があると思われます。すなわち,もしもB型の罹患時期が12月以前であればA型の予防対策としてワクチン接種は推奨されますし,既に1月以降のA型流行時期に入ってからB型に罹患したのであれば,ワクチンはA型の予防には間に合わない可能性があり,接種は積極的には推奨されません。
なお,今回のようなケースではワクチン接種するかどうかにかかわらず,実際にほかの型(このケースではA型)に罹患してしまった場合は,介護職員ということもあり,再度,抗インフルエンザ薬を使用することが望まれます。
2点目のワクチン未接種者がA型かB型に罹ってから,ほかの(亜)型のインフルエンザを予防するためにワクチンを接種すると決めた場合の接種のタイミングについては,はっきりとした見解はないようです。
ただ,厚生労働省の「予防接種ガイドライン」の中にはワクチン全般(インフルエンザワクチン以外も含め)に関して「疾病罹患後の間隔」についての指針があり,それを抜粋すると,標準的には個体の免疫状態の回復を考え,麻疹については治癒後4週間程度,風疹,水痘およびおたふくかぜなどの疾病については治癒後2~4週間程度の間隔をあけて接種する,そのほかのウイルス性疾患(突発性発疹,手足口病,伝染性紅斑など)に関しては,治癒後1~2週間の間隔をあけて接種する,という記載があります。インフルエンザとは明記されていないものの,この指針を準用すれば,インフルエンザ治癒後1~2週間程度の間隔をあけてワクチンを打つことは妥当と考えられます。
ただ,いずれの場合も一般状態を主治医が判断し,対象疾病に対する予防接種のその時点での重要性を考慮し,決定することとされています。また,ハイリスク者やそれらの人と接する機会が多い方について,流行がせまっていて緊急にワクチン接種が必要と主治医が判断した場合には,解熱して治癒したと思われる時点で接種することもありうると思われます。
ただし,インフルエンザに関してはほかの多くのウイルス感染症と異なり,抗インフルエンザ薬の使用が可能であり,未接種者が流行時期入りしてから予防を考える際には,ワクチン接種の代わりに必要時に抗インフルエンザ薬の予防投薬を行う,あるいは罹患した時点で早期に抗インフルエンザ薬治療を開始する,という選択肢もあると思います(文献1)。

【文献】


1) 社団法人日本感染症学会提言2012~インフルエンザ病院内感染対策の考え方について~(高齢者施設を含めて).
[http://www.kansensho.or.jp/guidelines/pdf/1208_teigen.pdf]
2) 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班, 編:インフルエンザ診療マニュアル2015-2016年シーズン版(第10版). 日臨内科医会誌. 2015;30(2):臨時付録.

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