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硬起性発声障害の病態とは?

No.4797 (2016年04月02日発行) P.62

平野 滋 (京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科准教授)

登録日: 2016-04-02

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

嗄声が続く患者を耳鼻科に紹介したところ,硬起性発声障害と診断を受けました。どういう病態でしょうか。また治療はどうするのでしょうか。 (東京都 F)

【A】

声は声帯の振動によってつくられます。声帯は左右一対,1.5~2cm程度の粘膜で,前方は左右交わりますが,後方は離れていて開閉運動を行います。声帯のつくる空間を声門と呼びますが,声門は吸気時には声帯が外転することで開大し,発声時には声帯が内転することで閉鎖します(図1)。
発声は声帯の内転による声門閉鎖,続いて呼気によって生じる声帯振動によって起こりますが,この声帯の内転力が強いか弱いかによって硬起声と軟起声にわかれます。硬起声は内転力が強くいわゆる「力み声」となり,軟起声は逆にソフトな声になります。本来,適度な内転力で声門が閉鎖されるのが最も良いわけですが,強すぎて発声障害をきたす場合を硬起性発声障害と呼びます。声門に力が入りすぎるので,いわゆる「のど声」となり,声を出すのが疲れるようになりますし,使っているうちに出にくくなります。
重度の場合は「とぎれ声」や「つまり声」になり,会話が困難となることもあります。通常,声門より上の仮声帯の絞扼も起こり,これがさらに声帯振動を阻害します。また,硬起性発声を続けると,声帯突起部の外傷により肉芽腫を形成することもあります。
硬起性発声になる原因は,内外喉頭筋の誤用によります。声帯の内転・外転,伸長・短縮を司る筋肉を内喉頭筋と呼び,5つ筋肉がありますが,内転筋の力が強いと硬起声になります。また,喉頭の外にある外喉頭筋が過剰に収縮すると声門,声門上腔が絞扼されます。通常,これらの筋肉の誤用は無意識に行われる悪い癖のようなものです。したがって,治療はこの悪い癖をとり,適正な発声状態に戻す音声治療が行われます。音声治療には種々の方法があり,音声療法士が行いますが,硬起性発声障害の場合は,外喉頭筋の絞扼をとる(首や肩の力を抜く),頸部の筋緊張をとる,声帯の内転力を適正化することが重要です。
よく行われる方法として,まず呼吸を整え一定化するためにチューブを用いたチューブ発声法があります。できれば腹式呼吸として,チューブを咥えて発声し,その間,一定の呼気を出す練習をすると,声門の閉鎖力が適正化します。次に咽頭・口腔・鼻腔(声が通過し共鳴するので共鳴腔と呼びます)での共鳴を促し,「響く声」を導きます(共鳴法)。これらの方法によって声門や声門上腔の過度の収縮が緩和され,正常の発声様式を取り戻すことができます。
音声治療の期間は通常3カ月が目安で,月に1~2回来院,その間は自宅で練習してもらいます。頸部の筋緊張をとる方法として喉頭マッサージも有効です(文献1)。診療所でも簡単に指導でき,自宅で毎日5~10分程度繰り返すとよいでしょう。

【文献】


1) Roy N:Ann Otol Rhinol Laryngol. 1996;105(11):851-6.

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