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妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠に対して有効な薬剤は?【日本ではインスリン注射薬のみだが,インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬,メトホルミンの有用性が期待】

No.4795 (2016年03月19日発行) P.62

森川 守 (北海道大学病院産科・周産母子センター 診療准教授/北海道大学大学院医学研究科 産科・生殖医学分野講師)

登録日: 2016-03-19

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)の管理手段として有効な薬剤はインスリン一本槍の状況でしょうか。ほかの研究はあるのでしょうか。 (京都府 O)

【A】

血糖コントロールにおいてアドヒアランスの観点からは,連日数回/日のインスリン自己注射よりは内服治療薬のほうが適当です。ただし,現在,わが国でのGDMや糖尿病合併妊娠の治療薬は原則インスリン(注射薬)のみです(文献1)。したがって,臨床の現場では内服治療薬に関する早期の検討が望まれることでしょう。内服治療薬のわが国ならびに海外での現状は以下の通りです。
(1)インクレチン関連薬(選択的DPP-4阻害薬):添付文書(2016年1月現在)では,「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与を考慮すること。〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。また,動物実験(ラット)で胎児への移行が報告されている。〕」と記されています。すなわち,「有益性投与」なので,インスリンに対するアレルギーがある妊婦などには投与されることがあります。実際に,米国糖尿病学会などでは数年前から既に症例報告などが発表されています。現在,わが国でも臨床研究として,浜松医科大学第2内科で「妊娠糖尿病におけるインクレチン,グルカゴン,ソマトスタチン分泌に関する研究」(UMIN試験ID000010573)が行われています。
(2)SGLT2阻害薬:デベルザR(トホグリフロジン)添付文書(2016年1月現在)では,「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には本剤を投与せず,インスリン製剤等を使用すること。〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。類薬の動物実験(ラット)で,ヒトの妊娠中期及び後期にあたる幼若動物への曝露により,腎盂及び尿細管の拡張が報告されている。また,動物実験(ラット)で胎児への移行が報告されている。〕」と記載されています。その解説(補足)には「国内及び海外において,妊婦を対象とした臨床試験を実施していないこと,これまで実施した臨床試験においても妊婦は組み入れられていないことから設定しています」とあります。
(3)メトホルミン:添付文書(2016年1月現在)では,「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。〔動物実験(ラット,ウサギ)で胎児への移行が認められており,一部の動物実験(ラット)で催奇形作用が報告されている。また,妊婦は乳酸アシドーシスを起こしやすい。〕」とされています。しかし,インスリン抵抗性が原因の不妊症に対しては,メトホルミンが投与されます。また,英国から「妊娠中肥満女性へのメトホルミン投与に関するRCTにおいて,メトホルミン投与群とプラセボ群で児出生体重に差はなかった」との報告(文献2)もあります。
以上のように,一部の薬剤では既に研究が行われています。なお,GDMならびに糖尿病合併妊娠の管理(血糖コントロール)の目的は,(1)母体高血糖による胎児異常の発生の予防(妊娠初期),(2)母体高血糖による胎児過体重に伴う経腟分娩時の胎児合併症(肩甲難産など)の予防,(3)GDM母体の将来母体2型糖尿病発症の予防,(4)母体の糖尿病合併症発症ならびに進行の予防,(5)児の将来成人病発症の予防,などが挙げられます。特に母体の血糖値が改善しても胎児の血糖コントロールが良くなければ,その治療が的確であったとは言えません。そこが,この分野での研究の大きな課題です。

【文献】


1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会, 編, 監:産婦人科診療ガイドライン─産科編2014. 日本産科婦人科学会, p24-8.
2) Chiswick C, et al:Lancet Diabetes Endocrinol. 2015;3(10):778-86.

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