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産業医は巡視の際に会社でインフルエンザ等の予防接種を行うことができないのですか?

No.4772 (2015年10月10日発行) P.62

安西 愈 (安西法律事務所)

登録日: 2015-10-10

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

産業医をしていますが,その業務外で,出務会社での予防接種(インフルエンザなど)を希望されることがあります。この場合,接種を行ってはならないと聞いていますが,そのように定めている法律はあるのでしょうか。
(兵庫県 M)

【A】

(1)医師が医業を行うことができる場所
本問は,予防接種法や感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく所定の法定予防接種ではなく,労働安全衛生法(安衛法)に基づく産業医の職務として,作業所等の巡視に赴いた際,事業者からの依頼によって行う任意のインフルエンザ等の予防接種についての質問と思われますので,その観点から検討します。
このような予防注射等の予防接種は,医療行為であり,場合によれば被接種者の生命・健康等に危険を及ぼすこともありうるので,実施医師は必要かつ適切な問診および視診を尽くし,的確に診断の上,接種する義務があるとされています。また,医師が予防接種を行ったときは,医師法第24条に基づいて診療録に記載する義務がある(昭和26年5月22日厚生省発衛第65号厚生事務次官通知)とされています。
そして,医療行為は,「病院,診療所,老人保健施設その他の医療を提供する施設(医療提供施設),医療を受ける者の居宅等において,医療提供施設の機能に応じ効率的に提供されなければならないこと」(たとえば,平成4年7月1日厚生省発健政第82号厚生事務次官通知)とされているところです。
すなわち,医療法では,医業または歯科医業を行う場所を病院,診療所,その他の医療提供施設に限定しています。したがって,医師が医業を行うことができる場所は,病院または診療所,もしくは患者の自宅等(往診)に限られることになっています。これは,医療という高度に患者の生命・健康に関わる行為をする場所については,一定以上の衛生水準を確保して安全を担保するとともに,国民の医療に対する信頼を確保しようとするものであるとされています。
(2)産業医の場合
一方,産業医は,安衛法第13条に基づく「労働者の健康管理等」の業務を行うもので,労働安全衛生規則第14条,第15条に基づく,健康管理,作業環境管理,作業管理,労働衛生教育といった広範囲にわたるものですが,あくまでも臨床的な医療業務とは一線が画されている労働衛生管理業務です。
すなわち,産業医としては,安衛法上の職務として巡回訪問して行う同法上の職務行為中は,医療行為のために赴いたものではありません。したがって,そこで予防接種というインフルエンザの予防注射等医療行為を行うことは,事業場(会社)は,医療提供施設ではないので,行ってはならないとされているのです。

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