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病院広告と自由競争

No.4752 (2015年05月23日発行) P.64

石田章一 (NPO法人日本HIS研究センター代表理事)

登録日: 2015-05-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

道路脇の民家所有地の広告設置場所にA病院が広告を出したところ,数カ月後に,B病院がA病院と似た内容の広告をその横に出しました。これは診療妨害にあたるのでしょうか。あるいは自由競争の社会であるから,しかたないと解釈されるのでしょうか。
広告類似行為に関する規定などがあれば,ご教示下さい。 (大阪府 W)

【A】

一般に道路などに向けて掲出される屋外広告の多くは,広告代理店のような仲介業者が介在し,スペース提供者と病院などの広告主との契約によって設置されることになります。表出する内容は,医療機関には広告規制がかかりますが,基本は広告主がその範囲で責任を持って独自の表現をすることになります。
ビルの壁面や,立地の良いところでは民家の一部を広告スペースに使うことは多々あります。そうした箇所に,たまたま病院の広告が並ぶこともありますが,意図して隣同士にすることは考えにくいことでしょう。その分,印象が散漫になり,インパクトが弱くなることを避けようとするからです。
これを考えると,ご質問のように,先に契約し掲出したA病院は,その後,隣にB病院の広告が並ぶことは予測できないことが多く,診療妨害を意図することは考えにくいと思われます。あるとすれば,A病院の広告を見たB病院が,A病院のメッセージを否定するような内容を掲出する可能性です。
しかし,これも広告規制などで自由な表現ができない現状を考えると難しく,また,それを見た住民がそのことをどのように理解し反応するか,その対応がいかほどの効果やマイナスをもたらすか,広告予算の範囲くらいで知ることはほとんど不可能です。新聞や雑誌広告でも同じようなことがありますが,これを予知するには,よほどの政治力があるか,事情に精通していることが必要でしょう。
したがって,これだけの情報では,ご質問の広告が診療妨害の範囲であるかどうかの推測は不可能です。
こうした話の延長線上に,専門的領域にはなりますが,あえて現物などを見せつつ対比させて主張する「比較広告」という手法があります。これは本来あるべき自由競争を阻害するものとして,日本では基本的には規制されています。医療広告においても,医療法や医療広告ガイドラインでは虚偽広告とともに早くから禁止,規制の対象に挙がっていました。
ところが米国などでは,この比較広告は,わかりやすい広告表現として受け入れられており,表出可能なのです。比較広告の目的は,相手の具体的な弱点を取り上げて自己の優位性を述べたてるところにあり,言葉は悪いのですが,相手を打ちのめすために大枚の費用をはたくということが行われてきました。
たとえば,少し古く,資料はありませんが,テレビCMで,競合する2社の乗用車を並べておき,双方のボンネットを大きなハンマーで力任せに叩いて,その壊れる様を見せるというものがありました。「ほら,当社のクルマはこんなに丈夫にできています」と理屈抜きで伝えるわけです。相手がどうあれ,自らの利点を明瞭に伝えることで消費者の選択を獲得することも広告の役割というわけです。
表現の自由を尊重する精神から言って,競争はある程度,許された範囲においては,むしろ社会のプラスになると考えられます。

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