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器質的疾患のみられないCEA高値患者への対応

No.4752 (2015年05月23日発行) P.59

阿部正樹 (東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 中央検査部)

登録日: 2015-05-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

50歳代,女性。人間ドックでCEA 10.4ng/mL。小腸を除く消化管内視鏡,US,全身のCT,MRCP,PETと詳細な画像検査で異常はありませんでした。経過観察においても,身体所見に異常を認めず,画像の再検査でも悪性疾患を疑わせる所見はなし。喫煙歴,糖尿病もありません。器質的疾患がみられないCEA上昇の機序と,今後の検査および経過観察について,ご教示下さい。 (京都府 K)

【A】

CEAは喫煙や糖尿病以外に甲状腺機能低下症や肝疾患においても10ng/mL程度まで上昇するケースもありますが,今回は該当しません。今回のように悪性疾患を疑わせる異常がないにもかかわらずCEAが上昇するケースとして,測定系に起因する要因を述べます。
第一に非特異反応があります。これは患者血清中に存在する何らかの生体成分が試薬や採血管成分と反応し,CEA検出のための免疫反応以外の反応を引き起こし,病態とかけ離れた測定値を示す現象のことです。この非特異反応の原因物質にはHAMA(human anti mouse antibody)に代表される異好性抗体や試薬構成成分に対する抗体,リウマトイド因子などが挙げられます。本反応による偽高値を確認するためには各種の確認試験があり(文献1),検査室の協力が必須です。差し当たっては,今回10.4ng/mLを示した検査試薬を検査室に調査してもらい,異なる試薬でCEAを再測定してみてはいかがでしょうか。通常,非特異反応であれば試薬が異なると原因物質の影響が及ばなくなるため,測定値は正常化します。
第二の原因としてはNCA-2(nonspecific cross re-acting antigen-2)の交差反応が考えられます。NCA-2はCEAの遺伝子ファミリーの1つで(文献2),その臨床的意義は定まっていないものの,比較的高頻度に血中に検出され,試薬によって測定されるケースと,されないケースがあります。これは各々の試薬に用いられている抗体が異なるためです。抗体ごとにCEA遺伝子ファミリーとの反応性が異なるため,NCA-2との反応性がある試薬ではNCA-2保有者は明確な異常がないにもかかわらずCEAが高値となる場合があります。
本症例もその可能性が考えられるため,検査試薬がNCA-2と反応性のある試薬か否かを検査室に確認してもらい(文献3) ,反応性のある試薬による測定であった場合には反応性の低い試薬で再測定し,測定値を確認します。結果が正常となった場合には,非特異反応とともにNCA-2による交差反応の可能性も併せて考える必要があります。なお,NCA-2そのものの同定はブロッティング法などで行われるため容易ではありませんが,測定値の比較により,ある程度の推察は可能です。
追加の確認試験(文献1)により本現象が非特異反応であることが確認されれば経過観察は不要です。また,NCA-2による交差反応の可能性が高ければ,今後はCEA値のみの経過観察でよいと思われ,上昇するようであれば再度精査を行います。
そのほか,今回の事例とは異なりますが,筆者らが経験したCEA非特異上昇の事例として,骨髄腫細胞がCEAを産生しIgAの増減とパラレルにCEA値が推移するIgA型骨髄腫患者症例も確認されています(文献4)。
ここまで測定系に起因する上昇について述べましたが,これらに該当しないカットオフ値2倍程度の原因不明な高値症例も現実には存在します。腫瘍マーカー高値ががんによる場合は,わずかずつでも増加していきますので,2~3カ月程度のスパンで,定期的にほかの腫瘍マーカーとともにCEAをチェックし,上昇があればほかの画像検査なども行うのが妥当なところでしょう。

【文献】


1) 阿部正樹:日臨検自動化会誌. 2011;36(2):208-13.
2) 黒木政秀:検と技. 1995;23(11):845-52.
3) 阿部正樹:臨検. 2013;57(11):1308-9.
4) Kaito K, et al:Int J Hematol. 2007;85(2):128-31.

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