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膵癌早期発見のためのCT検査の必要性

No.4747 (2015年04月18日発行) P.61

舩越顕博 (福岡山王病院肝臓・胆のう・膵臓内科膵臓内科部長)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

最近,大学病院を含めた一部の医療機関で,膵癌の早期発見のためとして,糖尿病患者を対象に定期的な腹部CT検査が推奨されているようです。その必要性について,専門家のご意見をご教示下さい。 (京都府 I)

【A】

膵癌は,最も予後が不良な悪性腫瘍の代表です。糖尿病の併発が多いことにより,膵癌と糖尿病の関係は以前より注目されてきました。糖尿病の発現が,膵癌の早期診断に有用とする報告もあります。わが国の膵癌登録報告によると,膵癌患者の既往歴では糖尿病が25.9%と最も頻度が高いことがわかります。多くの報告で糖尿病が膵癌の危険率を高めることが示されており,その危険率はおおよそ1.8~2.1倍です。高血糖/糖尿病が膵癌の危険因子となる機序は,必ずしも明らかではありませんが,いくつかの可能性が指摘されています。それは,高血糖による酸化ストレスの上昇,終末糖化産物の産生による発がん促進,さらには血糖上昇の背景にあるインスリン抵抗性と高インスリン血症によるがん化促進機序などです(文献1)。また,50歳以上の患者で,3年以内の急激な糖尿病(糖代謝障害)発症が約半数にみられます。そのため,急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,十分検査を行う必要があります(文献2)。
膵癌診療ガイドラインによる診断の手順については図1 (文献3)のように記載されています。
図1をもとに,膵癌診断の流れを簡単に説明すると,膵癌は特異的な症状に乏しいことがわかります。したがって,臨床症状は膵癌早期発見の指標にはなりませんが,腹痛などの腹部症状や,糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して検査を行うことが望ましいと思われます。
この際,腫瘍マーカーは早期の膵癌では異常値を示さないことが多いことに留意が必要です。超音波検査(US)は低侵襲であり,ある程度の質的診断が可能であることから,膵癌のスクリーニングとして勧められますが,腫瘍検出率は低いという難点があります。しかしながら,膵癌の間接所見として,主膵管の拡張や嚢胞の有無は重要です。このような所見が認められた場合は,速やかに次のステップに進むことが重要です。
単純CTは膵癌の診断には適しませんが,造影CT,MR胆管膵管撮影画像(MRCP)は膵癌の存在診断に有用です。したがって,血中膵酵素,腫瘍マーカー,USで膵癌が疑われた場合,その次に行うべき検査です。これらの検査により,膵管狭窄や腫瘍を認めた場合は,さらに超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行い,診断確定へと進むことになります。
膵癌は早期発見が困難で,確立された診断法はありませんが,発症高危険群である糖尿病に対して,定期的に腹部CTを行うより,積極的にUSを行い,次のステップとして,造影CT検査を行うことが,被ばくの面や費用対効果の点で重要です。

【文献】


1) 舩越顕博:胆と膵. 2014;35(4):373-7.
2) 舩越顕博, 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん. 改訂3版. 医薬ジャーナル社, 2013.
3) 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会, 編:科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン. 2013年版. 金原出版, 2013.

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