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乳酸菌製剤の菌交代現象への効果

No.4732 (2015年01月03日発行) P.103

神谷 茂 (杏林大学医学部感染症学教授・学長補佐)

登録日: 2015-01-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

経口抗菌薬使用時にラックビーやレベニンのような乳酸菌製剤を使うと,Clostridium difficile(C.difficile)増殖などの菌交代現象を防げるのかどうか。 (東京都 F)

【A】

C.difficileはグラム陽性の偏性嫌気性細菌であり,抗菌薬関連下痢症(antibiotic-associated diarrhea:AAD)および偽膜性大腸炎(pseudomembranous colitis:PMC)の原因となる。近年,AADとPMCのうち本菌によるものをC.difficile-associated diarrhea/disease(CDAD:C.difficile関連下痢症/疾患)もしくはC.difficile infection(CDI:C.difficile感染症)と呼ぶ。CDAD/CDIの病態発生には本菌の産生するトキシンAおよびトキシンBが重要な役割を果たしている(主として低分子量GTP結合蛋白質RhoのADPリボシル化に基づく)。
2002年より,欧米では第三の毒素であるバイナリートキシンを産生する新型C.difficile株による大流行が報告されている。わが国でも本型菌株が検出されているが大流行はない。本菌陽性者に抗菌薬が投与され,正常腸内細菌叢(フローラ)が攪乱され,菌交代現象としてC.difficileの異常増殖と毒素産生がみられることがCDAD/CDIの発症基盤となる(文献1)。
プロバイオティクス(probiotics)は「生体内,特に腸管内の正常細菌叢に作用し,そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす生きた微生物」と定義される(文献2)。プロバイオティクスはLactobacillus,Streptococcus,Enterococcus, Lactococcus,Bifidobacterium,Bacillus,Clostridium,Escherichia coli,Saccharomyces,Aspergillusなど,多種細菌によって構成される。プロバイオティクスはC.difficileの増殖を抑制するとともに,宿主細胞上への付着抑制効果,トキシン産生抑制効果などを持つことがin vitroおよびin vivo実験にて報告されている。
これまでにプロバイオティクスのCDAD/CDIへの臨床的予防効果が多数報告されてきた。その中で,プロバイオティクス投与を受けた小児におけるAADの発症リスクに関するメタ解析結果が報告された(文献3)。6つのRCT(randomized controlled trial)が解析の対象とされ,Lactobacillus rhamnosus GG,L.acidophilus/Bifidobacterium infantis,L.acidophilus/L.bulgaricus,Bifidobacterium lactis/Streptococcus thermophilus,Saccharomyces boulardiiなどのプロバイオティクスが使用された。AADの発症リスクは使用プロバイオティクスにより異なり,S.boulardii,L.rhamnosus GGで低く,L.acidophilus/L.bulgaricusで高い結果が示された。すべての研究結果から,プロバイオティクス使用時のAAD発症相対リスクは0.44を示し,小児のAAD発症予防にプロバイオティクス投与は有効であった。
2012年,Hempelら(文献4)は63のRCTを対象にメタ解析(患者数1万1811名)を行った結果,プロバイオティクス投与群のAAD発症相対リスクは0.58(95%信頼区間:0.50~0.68)であり,プロバイオティクスがAAD発症予防に有効であることを示した。同様に,VidelockとCremonini(文献5)の34のRCTを対象としたメタ解析(患者数4138名)の結果,プロバイオティクス投与群のAAD発症相対リスクは0.53(95%信頼区間:0.44~0.63)であり,その有効性が報告された。一方,プロバイオティクス投与がAADをはじめとするCDAD/CDIの発症予防には無効であったとする報告も多い。米国感染症学会・米国健康疫学学会の成人CDIの診断・治療に関するガイドライン(文献6)では,プロバイオティクス投与は十分な科学的データが蓄積されておらず,プロバイオティクスによる血流感染の潜在的リスクがあるため推奨されないとしている。
これまでに報告された多数のRCTでは使用抗菌薬の種類,用量が統一されていないこと,使用プロバイオティクスの菌種が様々であることなどの理由から,正確なメタ解析が行われにくいことが指摘されている。しかし,プロバイオティクス投与がCDAD/CDIの予防に有効であるとする論文報告はきわめて多いことより,臨床医家にとってCDAD/CDIの予防にプロバイオティクス投与を検討する価値は十分あるものと考えられる。その際,頻度は低いとは言え,プロバイオティクスによる内因性感染について十分注意を払うことが必要である。

【文献】


1) Viswanathan VK, et al:Gut Microbes. 2010;1 (4):234-42.
2) 神谷 茂:臨検. 2011;55(2):121-7.
3) Szajewska H, et al:J Pediatr. 2006;149(3):367 -72.
4) Hempel S, et al:JAMA. 2012;307(18):1959-69.
5) Videlock EJ, Cremonini F:Aliment Pharmacol Ther. 2012;35(12):1355-69.
6) Cohen SH, et al:Infect Control Hosp Epidemiol. 2010;31(5):431-55.

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