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消化器腫瘍手術後で再発がない場合の抗癌剤投与期間

No.4729 (2014年12月13日発行) P.54

小寺泰弘 (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学教授)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

消化器腫瘍(がん,GISTも含めて)で術後再発がない場合,抗癌剤治療は何年間すべきか。 (和歌山県 T)

【A】

手術療法で肉眼的にがんを取りきれた場合の術後に再発予防を目的として行われる抗癌剤治療は,術後補助化学療法と呼ばれる。この対象となる患者の中に,結果的に手術で治っている人,すなわち抗癌剤治療が不要な人が一定の比率で含まれてしまうことは避けられない。抗癌剤に毒性はつきものであるし,コストもかかるので,そのような難点があっても術後補助化学療法を行うべきと考えるためには臨床試験による十分な根拠が必要である。
抗癌剤治療を行わない群を対照とするランダム化比較試験を行い,術後補助化学療法群が毒性やコストに見合った生存率の上乗せを示した場合に,その治療法が採用されることになる。各々の臓器のがんにそれぞれ別個の臨床試験によるエビデンスが存在するので,各臓器のがんについてわが国で編纂された治療ガイドラインを参照し,適格基準を満たした患者に対してエビデンスに基づいてガイドラインに記載された治療を行うことが基本となる。
たとえば胃癌では,Stage II, IIIの患者に12カ月間のティーエスワンR の内服(文献1) ,消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)では,Fletcher分類における高リスク群あるいは腫瘍破裂を認める症例に対して3年間のイマチニブの内服が推奨される(文献2) 。大腸癌ではStage IIIが適応となり,薬剤の選択肢は増えるが,投与期間は6カ月間である。
海外での臨床試験に基づいた術後補助化学療法が採用されている臓器のがんもあるが,胃癌では,わが国と欧米での手術術式や治療成績が大きく異なることもあり,わが国で独自に得られたエビデンスが採用されている。わが国ではがんの告知がなされていなかった時代から術後補助化学療法が行われており,告知なしでも使用できるほど毒性が穏やかな代わりに効果も低いであろうと思われる薬剤を使用してきた。その分,治療期間が長期となりがちであったという歴史的経緯がある。
そこで12カ月間という比較的長期にわたる術後補助化学療法が提案され,臨床試験で検証された。現在,Stage IIの胃癌については,投与期間を6カ月間にしても12カ月間の場合に劣らないことを示すための新たな臨床試験が行われているところであるが,この結果が得られるまでにはまだ何年もかかる見通しである。
一方,GISTには,従来の抗癌剤(がん細胞を死滅させることを目的とした薬)はほとんど効果がなかった。こうした中で有効な薬剤として遂に見出されたイマチニブとは,GIST細胞を死滅させる薬ではなく,GISTの増殖に必要なシグナル伝達を抑える,いわばスイッチをオフにする分子標的治療薬であった。イマチニブを中止すれば,オフになっているスイッチがオンになり,休眠していた微小転移が活動を再開するという懸念から,投与期間は長期となりがちで,投与期間1年と3年のランダム化比較試験が行われ,3年間投与群に軍配が上がった(文献2)。
なお,臨床試験の適格基準を外れたがん,たとえば肝転移など遠隔転移を肉眼的に根治切除できた場合やStage IVに相当する洗浄細胞診陽性の胃癌の切除後などの再発予防については,残念ながら現段階では使用すべき薬剤,実施期間ともに確固たるエビデンスはない。術後補助化学療法の臨床試験で得られた効果と安全性のデータをもとに,患者の希望や体調に応じて実施することになる。

【文献】


1) Sakuramoto S, et al:N Engl J Med. 2007;357(18): 1810-20.
2) Joensuu H, et al:JAMA. 2012;307(12):1265-72.

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