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糖尿病と肝臓癌の関係

No.4723 (2014年11月01日発行) P.61

浅岡良成 (東京大学医学部消化器内科学)

小池和彦 (東京大学医学部消化器内科学教授)

登録日: 2014-11-01

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

糖尿病患者は,膵臓癌,肝臓癌になる確率が高いと言われている。膵臓癌は理解できるが,肝臓癌の原因のほとんどはB,C型肝炎ウイルスであり,糖尿病とは直接関係ないと思われる。どのような機序で,糖尿病患者が肝臓癌を発症しやすいと言えるのか。 (東京都 S)

【A】

近年の大規模な疫学研究により糖尿病患者は,糖尿病でない人と比較して,有意に癌になりやすいことが注目されている。その中でも肝癌のハザード比が最も高く,1.8~2.9程度と見積もられている。糖尿病患者での発癌機序としては,いまだ不明なところが多いが,インスリン抵抗性による高インスリン血症と酸化ストレスの亢進によるDNA損傷が主要な機序として挙げられる(文献1)。
インスリン抵抗性による高インスリン血症は肝細胞のインスリン受容体を直接活性化する。また高インスリン血症は,インスリン様成長因子-1(IGF-1)に結合して機能を制御するIGF結合蛋白(IGFBP)の発現を抑制するため,IGF-1の活性を増強することも知られている。IGF-1はインスリン受容体やIGF-1受容体に結合し,活性化させる。これらの受容体は,肝細胞内の細胞増殖シグナルや抗アポトーシスのシグナルを活性化し,発癌を促すと考えられる(文献2)。
また,高血糖状態ではミトコンドリアでのグルコース酸化の過負荷などを介して,酸化ストレス産生が亢進する。脂肪肝では脂肪酸の酸化によってもROS(活性酸素)が発生しやすくなり,酸化ストレス産生が亢進する。酸化ストレスは,糖尿病による血管障害の原因としても知られているが,酸化的DNA損傷により遺伝子変異を誘発し,発癌を惹起する(文献1)。
糖尿病症例の多くは,肥満や脂質異常症などのメタボリック因子を有し,脂肪肝を認める。肝臓内の脂肪蓄積が慢性炎症をきたし,肝硬変ひいては肝細胞癌を発症する非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)は近年最も注目されている病態である。NASHの病態では,TNF-α,IL-6などの炎症性サイトカインの産生亢進が示され,発癌に関与すると考えられている(文献3)。糖尿病患者ではNASHが多いことが推定され,現在,検証中である。
オートファジーは,飢餓時に自分の細胞内組織を分解し,エネルギーを供給する細胞内の機構として基礎研究の分野で注目を集めているが,NASHでは機能低下を認めることが示されている。このオートファジーの機能低下は肝腫瘍形成にも関与している(文献4)ことから,NASH肝発癌への関与が示唆されている。また肥満・糖尿病患者における腸内細菌叢の変化も,NASHの形成や発癌に関与することが示され,注目されている(文献5)。
このように,糖尿病患者では直接・間接的な機序が互いに複合的に関与して,肝発癌を促進していることが想定されている。

【文献】


1) Kasuga M, et al:Cancer Sci. 2013;104(7):965-76.
2) Pollak M, et al:Nat Rev Cancer. 2012;12(3): 159-69.
3) Park EJ, et al:Cell. 2010;140(2):197-208.
4) Takamura A, et al:Genes Dev. 2011;25(8):795-800.
5) Yoshimoto S, et al:Nature. 2013;499(7456): 97-101.

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