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抗甲状腺薬で肝障害をきたした バセドウ病患者への対応

No.4716 (2014年09月13日発行) P.59

網野信行 (医療法人神甲会隈病院内科学術顧問)

姜 信午 (医療法人神甲会隈病院内科)

登録日: 2014-09-13

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

57歳,女性。2月14日,頻脈(90~100/分),体重-1kgを契機にバセドウ病と診断。このとき,FT3:9.3pg/mL,FT4:3.18ng/dL,TSH<0.08μU/mL。近くの公立病院を紹介し,メルカゾール4錠/日を投与された。
3月13日,当院でGOT:291IU/L,GPT:235IU /L,γ-GTP: 143IU/L,WBC:4900/μLでメルカゾールによる肝障害を疑い中止。ヨウ化カリウム50mg/日に変更。幸い,肝機能は改善し,4月4日,GOT:28,GPT: 43,γ-GTP:69。同月7日,FT3:3.17,FT4:1.21,TSH<0.1となった。
問題は主治医より「ヨウ化カリウムは長期投与できず,次の段階でプロパジールへ変更し,再び肝障害になったときは手術も考えないといけない」と言われたことである。エコーでは甲状腺内の右葉に13×10×16mm,左葉に8×7×11mmの嚢胞がある。TRAbは10.2IU/L,甲状腺は20~30g。現在脈拍は60~65/分と安定。プロパジールがうまくいかないときの対応法を。 (愛媛県 O)

【A】

本質問はバセドウ病治療でしばしば遭遇する問題である。本例は以下の3点に絞って考えてみたい。(1)本例はメルカゾールによる肝障害と考えてよいか,(2)ヨウ化カリウム単独治療を継続できないか,(3)プロパジールで肝障害が出たとき,次の治療をどうするか,である。
(1)本例はメルカゾールによる肝障害か
未治療バセドウ病のうち35%にGOT,GPTの高値がみられる。メルカゾールで治療し,甲状腺機能が1~3カ月で正常値化する際,代謝の改善に伴ってさらにGOT,GPTの上昇がみられ,患者の10%でGPTが100IU/L以上を示す。GPTが150IU/L以下の場合,薬の副作用ではないのでメルカゾール治療を継続してもよい(文献1)。これらの代謝の変化に伴って上昇するGOT,GPTでは,GPTのほうがGOTより高いことが一般的である。本例はGOTがGPTより高く,250 IU/Lを超えているのでメルカゾールの副作用と考えるほうが妥当であろう。
(2)ヨウ化カリウム単独治療は継続可能か
ヨウ化カリウムはメルカゾールと併用すると機能亢進が早く改善し,かなり有用であるが(文献2),単独でどのくらい使用できるであろうか。最近,バセドウ病でもTRAbが20IU/L以下で,甲状腺が40~50g以下の軽症例では,ヨウ化カリウム単独治療で寛解が高確率で得られることが注目されている。本例ではTRAbが10.2IU/Lで甲状腺が20~30g程度なので,ヨウ化カリウム単独治療を続けてもよいかもしれない。
(3)プロパジールで肝障害が出た後の治療
1つの抗甲状腺薬で肝障害が起こった場合は,ほかの抗甲状腺薬でも肝障害が発生する率は高くなる。肝障害の頻度はメルカゾールよりプロパジールのほうが高いので,本例のプロパジール使用に際しては,かなり慎重に経過を見なければならない。副作用でプロパジールが使えなくなったときは,アイソトープ治療か手術療法を行う。バセドウ病眼症があるか,甲状腺が100g以上と大きいか,あるいはTRAbが100IU/Lを超えるものは甲状腺全摘が適応となる。本例では甲状腺がそれほど大きくなく,TRAbもあまり高くないので,患者に永続性甲状腺機能低下症が発生することを了解してもらった上で,アイソトープ治療が適応となる。いずれにしても,アイソトープ治療か手術療法の場合は甲状腺専門施設に依頼する。

【文献】


1) Kubota S, et al:Thyroid. 2008;18(3):283-7.
2) Takata K, et al:Clin Endocrinol(Oxf). 2010;72 (6):845-50.

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