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無難聴性耳鳴の対処法と病的耳鳴との鑑別

No.4713 (2014年08月23日発行) P.61

馬場俊吉 (日本医科大学千葉北総病院耳鼻咽喉科副院長・部長・特任教授)

登録日: 2014-08-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

普段は意識しないが静かな環境になると聞こえてくる持続的なかつ器質的な異常のない(健常人にも起こりうる)耳鳴の実際の発症頻度や対処法(治療法),異常な耳鳴との鑑別方法について。また慢性的に中耳炎を反復した病歴との関係について。 (兵庫県 K)

【A】

無響室に入るとほとんどの人(91%)が「シーン」という音を自覚する(文献1)。聴覚系は,外部から音が入ってこない状態でも常に活動し,電位を脳に送っている。また,外有毛細胞は自動運動をしており機械的な音を発生している。このように生理的に発生し,電位や機械音を周囲の音がない環境で聞くことができる耳鳴は生理的な耳鳴あるいは無響室性耳鳴と呼ばれている。
臨床一般的には純音聴力検査で異常のない耳鳴を無難聴性耳鳴(耳鳴患者の10%前後)と定義する。無響室性耳鳴と無難聴性耳鳴の最大の違いは,耳鳴の訴えがあるかないかである。無響室性耳鳴は,生理的な耳鳴であり,日常生活環境において自覚されない。一方,無難聴性耳鳴は何もしていない時や静かな環境下で耳鳴を自覚し,耳鳴を主訴に病院を受診し,疾患として治療対象となる。無難聴性耳鳴と無響室性耳鳴の周波数は類似しており,両者の間に差はないと報告されている(文献1)。また,心理分析で特有な知見は得られていない。
純音聴力検査は1オクターブ間隔で125~8000 Hzまでの聴力閾値を測定しているため,周波数間に障害があっても検出することができない。また,ヒトの聴覚可聴域は20~2万Hzであるが,純音聴力検査では,125Hz以下および8000Hz以上の周波数の障害は検出されない。
無難聴性耳鳴患者に連続周波数自記オージオメトリーを施行した結果,聴力障害が認められる症例もあり,耳鳴検査結果も内耳性難聴に伴った耳鳴患者と差がないと報告されている(文献2)。無難聴性耳鳴は高周波数域の聴力異常に起因するものがあるという報告もなされている。また,無難聴性耳鳴側への歪成分耳音響放射検査(distortion product otoacoustic emission:DPOAE)では対側に比して小さく内耳障害の存在が示唆されている(文献3)。
耳鳴が自覚されることに関して,不快レベル(UCL)と快適レベル(MCL)での検討がなされている。その結果,無難聴性耳鳴患者ではUCL・MCLが正常耳に比べて低下しており,聴覚過敏性症状を合併していると報告されている(文献4)。無難聴性耳鳴は,純音聴力検査では異常を認めないが,詳細な聴力検査で内耳障害が検出された場合は内耳性耳鳴と考えられる。また,耳鳴を自覚する要因のひとつとして聴覚過敏状態が潜在すると思われる。このような症例は慢性的に中耳炎を反復しており,内耳へ炎症が波及し,内耳障害を起こしているものと考えられる。
無難聴性耳鳴の治療に関し,有効な治療法がないのは,難聴に起因した耳鳴と同様である。その治療法もビタミン製剤,血流改善薬,TRT療法や心理療法などが用いられている。

【文献】


1) 朝隈真一郎, 他:耳鼻と臨. 1985;31(1):1-6.
2) 増野博康, 他:Audiol Jpn. 1991;34(5):527 -8.
3) 坂田俊文, 他:Audiol Jpn. 2009;52(4):220-6.
4) 荒木謙太郎, 他:Audiol Jpn. 2011;54(3):214-21.

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