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家族性非髄様甲状腺癌(FNMTC)の取扱い【甲状腺内の病巣の広がりに応じて,甲状腺切除範囲を決定】

No.4802 (2016年05月07日発行) P.61

内野眞也 (野口記念会野口病院外科 統括外科部長)

登録日: 2016-05-07

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

遺伝型甲状腺癌では髄様癌についての研究が進んでいますが,髄様癌以外での家族性発生も時に目にします。
家族性非髄様甲状腺癌(familial non-medullary thyroid carcinoma:FNMTC)については,(1)様々な症候群に合併する場合がある,(2)甲状腺内多発が多い,(3)予後が不良である,などの報告があります。実際に家族性発生が疑われた場合に行っておくべき検査,患者・家族への説明(遺伝カウンセリングも含めて),手術術式(甲状腺温存切除は禁忌か),術後サーベイランスの方法などについてご教示下さい。野口病院・内野眞也先生にお尋ねします。
【質問者】
杉谷 巌:日本医科大学内分泌外科教授

【A】

FNMTCは主に乳頭癌と濾胞癌が対象となりますが,甲状腺癌以外の臨床徴候を示す症候性と,甲状腺癌のみがみられ,他の臨床徴候を示さない非症候性にわけられます。
症候性としては,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP),Cowden症候群などが知られています。FAPは大腸に多数のポリープが発生し,若年で大腸癌を発症する常染色体優性遺伝性疾患であり,原因遺伝子はAPC癌抑制遺伝子です。FAPの一部の若年女性に,篩(・モルラ)型乳頭癌が発生します。甲状腺細胞診あるいは病理組織像でこの特殊な乳頭癌が判明した場合はFAPを疑い,APC遺伝子検査を行います。ただし変異はFAPの約70%にしか証明されないため,変異がなくてもFAPの可能性は否定できませんので,大腸内視鏡検査は必ず行います。Cowden症候群は腸管に多発性過誤腫性ポリープを発生し,乳腺・甲状腺・子宮などに良性あるいは悪性腫瘍を生じる常染色体優性遺伝性疾患であり,原因遺伝子はPTEN癌抑制遺伝子です。これらの疾患は遺伝形式や原因遺伝子が既に明らかであり,家族歴,甲状腺病理組織像,他臓器の臨床徴候の有無,遺伝学的検査などから診断・治療を行っていきます。
非症候性FNMTCは,本人を含めて第一度近親者に濾胞上皮細胞由来の甲状腺癌が2人以上認められる場合で,他に特徴的な臨床徴候を認めない場合です。そのほとんどは家族性乳頭癌であり,家系内に3人以上FNMTCが認められた場合,遺伝性の可能性が高いと考えます。術前検査は散発性の場合と特に変わりはありません。FNMTCの臨床的特徴に関しては,生存・再発率に関連するという報告もあれば,生存・再発率には差がないとする報告,世代を経て若年になるほどより悪性度を増す表現促進現象などの報告があり,まだ一定の見解に至っていません。しかし一般的に,FNMTCでは甲状腺内に多発する傾向があり,残存甲状腺や頸部のリンパ節など局所再発率が高くなるため,必然的に散発性症例よりも広範な甲状腺切除とリンパ節郭清を施行することになります。すべてのFNMTCに全摘を選択する必要はなく,甲状腺内の病巣の広がりに応じて,甲状腺切除範囲を決定します。術後サーベイランスに関しては,散発性症例と特に変わりなく行うことでよいと思います。また,血縁者に甲状腺超音波スクリーニングを行うと,無症候性の甲状腺癌が約10%に発見されるので,甲状腺超音波スクリーニングを積極的に勧めてよいと思います(文献1)。原因遺伝子は長年明らかにされていませんでしたが,HABP2(hyaluronic acid-binding protein 2)遺伝子のgermline mutationを有するFNMTC家系がNIHのGaraら(文献2)により最近報告されましたので,注目に値すると思います。

【文献】


1) Uchino S, et al:World J Surg. 2004;28(11):1099-102.
2) Gara SK, et al:N Engl J Med. 2015;373(5):448-55.

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