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ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)の病態と治療【治療には副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬の併用が有用】

No.4800 (2016年04月23日発行) P.57

吉田尚弘 (自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科教授)

登録日: 2016-04-23

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

難治性の中耳炎が増加し,診断や治療に苦慮する症例が多く認められます。また初発症状が中耳炎であっても,その後,全身症状を呈し,患者の生命をも脅かす場合が少なくありません。昨今,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となることが多いANCA関連血管炎性中耳炎(otitis media with ANCA associated vasculitis:OMAAV)が注目されています。
本疾患の病態,診断法,治療法などについて,この分野の専門である自治医科大学附属さいたま医療センター・吉田尚弘先生のご教示をお願いします。
【質問者】
石川浩太郎:国立障害者リハビリテーションセンター 病院第二耳鼻咽喉科医長

【A】

ANCA関連血管炎は主として全身の細・小血管の壊死性血管炎を病態とする疾患です。ANCA関連血管炎には,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA),多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA,旧名:ウェゲナー肉芽腫症),好酸球性肉芽腫性多発血管炎(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA,旧名:Churg-Strauss症候群)が代表的な疾患として含まれます。近年,上気道,肺,腎,心臓など全身症状以外に耳症状を初発あるいは経過中に呈するOMAAVが比較的多く存在し,診断,治療に苦慮する難治性中耳炎のひとつであることが示されています。
耳症状を初発症状とするOMAAVでは,(1)抗菌薬,鼓膜切開などを併用した治療に抵抗性,(2)中耳の肉芽,滲出液の細胞診,病理組織診断にて炎症所見が中心,(3)感音難聴の急速な進行,といった臨床症状を呈し,従来原因不明とされていた難治性中耳疾患の中にOMAAVが存在する,と考えられています。鼓膜,中耳に肉芽を生ずる症例もありますが,中耳貯留液を認め滲出性中耳炎に類似した鼓膜所見例が多くみられます。病理組織からANCA関連血管炎の確定診断が得られることは少ないです。
診断にはMPO-ANCA,PR3-ANCA抗体価の測定が重要です。日本人ではMPO-ANCA陽性がより多くみられます。一部の症例ではMPO-ANCA,PR3-ANCAともに陰性のこともあり,顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎の合併は本疾患を疑う症状です。急性感音難聴に対して副腎皮質ステロイドを投与することは多いのですが,副腎皮質ステロイド投与によりANCA抗体価は陰性化します。当初,急性感音難聴と考えて治療した後に難聴が再燃して本疾患が疑われる場合,診断に苦慮することがあります。原因が確実ではない感音難聴例では,副腎皮質ステロイド投与前にあらかじめANCA抗体価を確認しておくことが勧められます。
治療には副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬の併用が有用です。聾になると,免疫抑制薬を併用した治療を行っても聴力は回復しません。全身型への移行前,骨導閾値の測定可能な早期に本疾患を疑い診断し,治療を開始することが大切です。

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