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難聴遺伝子検査の方法と有用性【遺伝子変異を同定し,治療方針決定,進行予防などに役立てることが可能に】

No.4796 (2016年03月26日発行) P.54

石川浩太郎 (国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二耳鼻咽喉科医長)

登録日: 2016-03-26

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

これまで難聴の原因は伝音難聴,内耳性難聴,後迷路性難聴と診断するのが限界でしたが,最近は難聴遺伝子検査が保険収載され,詳細な難聴の原因同定のほか,様々な臨床応用がされていると聞きます。
実際の難聴遺伝子検査の流れ,どのようにしたら受けられるのか,どのような人が受けるとよいのか,何がわかるのかについて,この分野の専門である国立障害者リハビリテーションセンター病院・石川浩太郎先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岩崎 聡:国際医療福祉大学三田病院耳鼻咽喉科教授

【A】

感音難聴は内耳組織を体外に取り出して調べることができないという解剖学的特殊性から,その原因診断は難しいとされてきました。しかし,昨今の分子遺伝学の進歩により,感音難聴の原因検索に難聴遺伝子解析が有用であることが注目されています。
先天性難聴は1000人に1人と頻度の高い先天性障害のひとつであり,その約60%は遺伝子が関与していると言われています。一方で感音難聴に関連する遺伝子は100以上存在すると言われており,その遺伝的異質性のため個々の感音難聴患者の原因遺伝子を1つずつ同定していくことは困難でした。これまでの研究の進歩で,日本人に頻度の高い難聴原因遺伝子の存在や,同じ原因遺伝子でも日本人に多い変異部位があることが知られ,これをもとに難聴原因遺伝子同定を効率的に行うため,信州大学の宇佐美真一教授を中心に網羅的解析の手法としてインベーダー法が開発されました。2012年4月から「先天性難聴の遺伝子診断」として保険収載され,13遺伝子46変異を調べることが可能です。
実施にあたっては患者,家族に十分な説明を行い,文書による同意を取得します。この検査による原因遺伝子変異の診断率は約30%です。同定された原因遺伝子として最も多いのはGJB2遺伝子変異,2番目に多いのはSLC26A4遺伝子変異という結果が得られました。この方法で同定されなかった場合は,共同研究であるTaqMan  PCR法を用いた6遺伝子55変異を検索する方法や,次世代シークエンサーを用いた頻度の低い原因遺伝子同定のための検査を行うことが可能です。なお,共同研究を行うには各施設の遺伝子倫理委員会の承認が必要です。難聴遺伝子診断,結果説明を行う際は,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと連携した遺伝カウンセリングの実施が重要です。
このようにして得られた遺伝学的検査結果を用いて,難聴に対する治療方針決定,将来の聴力レベルの予測,難聴の進行予防,合併症発生の予測などに役立てることができます。一例を挙げると先天性難聴の原因遺伝子として最も頻度が高いGJB2遺伝子変異において,その中で最も頻度の高いc.235delC変異を有する患者は,その難聴の程度が高度となることが知られています。加えてGJB2遺伝子変異が原因の難聴患者の人工内耳手術の効果が高いことが報告されていることから,GJB2遺伝子c.235delC変異ホモ接合を同定できた患者に対しては,早期に人工内耳手術を勧めることができます。
このように難聴原因遺伝子を同定することで個々の患者に最も適した治療方針を示すことが可能になり,遺伝子診断は難聴を診療する上で非常に有用なツールとなります。難聴の原因別個別化医療の発展のためにも,さらに難聴遺伝子検査が進歩し,普及することを期待しています。

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