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高細胞型乳頭癌の術後治療と経過観察【高癌死危険度群や高再発リスク群には,甲状腺全摘・放射性ヨウ素内用療法を勧める】

No.4796 (2016年03月26日発行) P.52

杉谷 巌 (日本医科大学大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授)

登録日: 2016-03-26

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

高細胞型乳頭癌(tall cell variant:TCV)はしばしば再発を繰り返し,高分化癌と比較すると予後は不良です。そこで,TCVの場合は,術後治療や経過観察など通常の高分化癌と何か区別しているのでしょうか。たとえば,放射性ヨウ素内用療法を積極的に実施したほうがよいでしょうか。また,頸部リンパ節再発を繰り返すような症例では,再発巣摘出後に頸部外照射などの適応はいかがでしょうか。日本医科大学・杉谷 巌先生のご教示をお願いします。
【質問者】
宮 章博:隈病院副院長

【A】

TCVは乳頭癌の稀な亜型で,高さが幅の3倍以上(文献によっては2倍以上)ある乳頭癌細胞が主体を成すものとされています。細胞ごとにその高さは一定ではない上に,1枚の切片上では細胞が様々な角度から切れるため,診断は必ずしも容易ではありません。また,高細胞が全体の10%でもTCVと診断するべきというものから50%以上を占めることが必要とするものまで,定義にばらつきがみられます。
自験例(がん研究会有明病院)における乳頭癌352例の再検鏡(1994~2001年取り扱い症例)では1例(0.3%)のみがTCVと診断されました。著明な喉頭・咽頭浸潤を認めた63歳女性で,拡大根治切除手術後10日目に副腎不全のため死亡しています。一方,隈病院の報告では1707例の乳頭癌中62例(3.6%)がTCVと診断されており,10年疾患特異的生存率(cause specific survival:CSS)は90.5%と,他の乳頭癌に比べ有意に不良でした。TCVは高齢者に多く,壊死や細胞分裂像,腺外浸潤を伴うことが多いとされています。すなわち,臨床的に高リスク群に該当するものが多いことになります。
私たちの検討では,充実性・索状・島状構造(solid,trabecular,insular:STI)といった低分化成分が全体の10%以上を占める乳頭癌の予後はそれ以外のものに比べ不良でしたが,臨床的に低癌死危険度群に属するものでは10年CSSが86%であったのに対し,高癌死危険度群〔遠隔転移あり,または50歳以上で高度の腺外浸潤または3cm以上のリンパ節転移(N)あり〕に該当するものの10年CSSは57%でした。高細胞やSTIの有無・分量についての病理組織学的報告は重視しますが,当科では甲状腺切除範囲と術後補助療法については,術前・術中の臨床的リスク分類に基づいて決定しています。
高癌死危険度群や高再発リスク群(60歳以上,腫瘍径3cm以上,2cm以上のNありのうち,2項目以上該当)には,甲状腺全摘・放射性ヨウ素(radioactive iodine:RAI)内用療法を勧めています。しかし,臨床的に低リスク群であった場合で,甲状腺温存切除後にTCVであることが判明した場合には,早急に補完全摘は行わず,FDG-PETなども用いた慎重な経過観察を行うようにしています。TCVではRAI抵抗性のものが多いのもその理由のひとつです。局所再発に対する放射線外照射の経験はありませんが,低分化癌と同様に,一定の効果は期待できるかもしれません。
最近では,RAI抵抗性で進行性の切除不能分化癌に対する分子標的薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosinekinase inhibitor:TKI)も登場しています。TCVではBRAF変異を伴うものが多いという報告もあり,MAPK経路を阻害するTKIの効果が期待できるのかもしれません。RAI抵抗性の確認がTKIの適応条件となりますので,低リスク群であっても,再発をきたした場合には,早い段階で補完全摘・RAI治療を行っておく必要がありそうです。

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