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整鼻術における術式選択への アプローチ【プロブレムリストを用いて変形を手技に翻訳する】

No.4793 (2016年03月05日発行) P.61

今井啓道 (東北大学大学院医学系研究科形成外科学分野 准教授)

登録日: 2016-03-05

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

鼻の整容性を向上させるためには,高度な技術と卓越した外科医のセンスが問われるかと思います。外傷や先天異常,また美容目的による整鼻術には骨切りや骨削りを必要とする場合も多くあります。
その人の生まれ持った外鼻の形態,また顔全体の中でのバランスも考慮しながら,目的とする形態に近づけるために必要な外鼻フレームワークの再構築をどのようなアプローチで進めていくとよいでしょうか。東北大学・今井啓道先生のご教示をお願いします。
【質問者】
草野太郎:昭和大学医学部形成外科

【A】

難しい質問ですね。実は私も悩みながら日々自分の方法を探っている途上です。
さて,質問にある「アプローチ」には,(1)手術計画を考える思考過程に関するものと,(2)手術手技に関するもの,があります。私は先天性疾患や外傷による外鼻変形を扱うことが多いため,その治療の中で現在実践していることを書いてみます。参考になれば幸いです。
[1]まず,思考過程について説明します。
整鼻術に限らず形成外科全般に言えることですが,形成外科にとっての「診断」とは,「形」を診ることにほかならないと考えています。つまり,「変形」をとらえることができなければ診断ができていないことになり,その「変形」を治すことはできません。そこで私はプロブレムリストをつくっています。プロブレムリストで可能な限り多くの「変形」を書き出します。「変形」は正常からの逸脱ばかりではありません。患者の希望する形態からの逸脱も含みます。
次に,それぞれの「変形」の原因となっている解剖学的問題点を考察し評価します。その際「外鼻フレームワークの再構築」という観点から,鼻尖部を支える鼻中隔尾側縁・鼻翼軟骨と,鼻背部を支える鼻骨・外側鼻軟骨の状態には,特に注意を払います。そして,その解剖学的問題点を修正する手術手技をそれぞれ考察し,計画します。
実際には,解決する手術方法が見つからないこともありますし,解剖学的な問題点を正しく評価できないこともあります。しかし,「変形」をいくつもの問題に分割して考えることで課題が明らかになります。それによって,文献から解決策を探ったり,新たな創意工夫を凝らしたりしやすくなり,術後の結果を顧みる際にも問題点を明らかにしやすく,治療の改善につながると考えています。
最後に全体を俯瞰して,矛盾する手技はないか,一期的に可能か,鼻以外の形態とのバランスはどうか,などを確認します。
この最後の段階は,患者の希望や術者の好みが出るところでしょう。「変形」を「手術手技」に翻訳する,このような思考過程を自然に頭の中で行えるようになりたいと思っていますが,いまだ叶いません。そのため,私は意識的にプロブレムリストを書き出す方法を続けています。
[2]さて,次に手術手技に関するアプローチについて,私の考えを書いてみます。
「外鼻フレームワークの再構築」という観点から,私は,可動性のある鼻尖部と固定されている鼻背部を別々に形成するアプローチを採っています。つまり,鼻背部を構成する鼻骨・外側鼻軟骨と,鼻尖部を支える鼻中隔尾側縁・鼻翼軟骨は,別個に再構築したほうが望ましい,との考え方です。これは,先のプロブレムリストを用いた思考過程からも,そのほうが自然です。また,鼻背部をonlay graftで再建する場合も,あくまでgraftは鼻骨から外側鼻軟骨上までに留めることで,graft尾側端で鼻尖部を聳立する必要がなくなり,鼻尖の皮膚やonlay graftに無理な力がかからなくなります。
実際の手術では,まず鼻尖部の位置と形態をseptorhinoplastyと鼻翼軟骨の形成などの手技で決めてから,それに合った鼻背を鼻背部への移植術や鼻骨骨切りによって形成します。骨切りが必要な場合,手順としては先に予定された鼻骨骨切りを行ってしまいますが,形態を決めるのは鼻尖形成の後です。鼻尖部のサポートとしての鼻中隔尾側縁・鼻翼軟骨の再構築がどうしても難しい症例に限って,cantilever graftやL-shaped graftでの鼻背・鼻尖部の一体的再構築を考えるようにしています。
形成外科とアートは共通部分が多い分野です。人体を表現するアーティストたちはルネッサンスの時代から人体を形づくる必然としての解剖学に強い興味を示し,それを勉強して作品に反映させてきました。形成外科も同じですね。

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