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重症下肢虚血に対する遊離筋皮弁を用いた足救済手術【歩行機能・重症度・長期予後・周術期リスク・病変の範囲を考慮】

No.4786 (2016年01月16日発行) P.59

田中嘉雄 (香川大学医学部形成外科教授)

登録日: 2016-01-16

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

重症下肢虚血に合併した足部潰瘍に対して,遊離筋皮弁による足救済手術が行われることがありますが,一方で切断術を選択せざるをえない場合もあります。
(1) 遊離筋皮弁による足部再建の適応について。
(2) 再建術式として筋皮弁+植皮,皮弁などの報告がありますが,再建法の選択基準や,術後の歩行状況ならびに救肢率,再発率について長期的成績も含めて。
以上について,香川大学・田中嘉雄先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐武利彦:横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科准教授

【A】

[1]重症下肢虚血に合併した足部潰瘍に対する,遊離筋皮弁による足部再建の適応
重症下肢虚血の治療の目的は,(1)機能的な下肢の温存,(2)疼痛の除去,(3)創傷治癒,(4)QOLの維持と改善です。
これらの目的は外科的血行再建あるいは血管内治療による足部への血液灌流の増加でほとんどの場合に達成されますが,腱や骨の露出などを伴って足部の組織欠損が大きい場合には,血行再建に加えて遊離筋皮弁を移植することで機能的な下肢の温存に努めています。
下肢の温存には,以下の2つの方法が挙げられます。
(1)浅大腿動脈と,それより中枢動脈の血管内治療後に遊離筋皮弁移植を行う。
(2)遠位血行再建(distal bypass)と同時,あるいは二期的に遊離筋皮弁移植を行う。同時に行う場合には,創部の被覆のみでなく末梢の血管床(網)を増やすという目的も含まれています。
手術適応は,以下の5つの項目を評価して決めます。
(1)歩行機能:手術によって歩行が可能になるか。
(2)虚血の重症度:血管内治療と外科的血行再建の適応があるか。
(3)長期予後:長期の手術効果が期待できるか。PR
EVENTⅢリスクスコアを用いて判断しています。
(4)周術期のリスク:麻酔科の判断が大きく左右します。左室駆出率50%以上を目安にしています。
(5)病変の範囲:腱・骨の露出がある場合。欠損がMP関節より中枢になる場合。
評価で最も大きく占める要因は(4)です。全身的な要因から手術が行えず,痛みのコントロールができないときには,下肢切断を選択します。
[2]再建法の選択基準,術後の歩行状況,救肢率,長期的成績
1)筋皮弁+植皮か皮弁かの選択
当科では,遊離筋皮弁と植皮の組み合わせを選択しています。このとき皮弁はモニタリング程度に小さくし,筋弁をメッシュ植皮で被覆しています。筋弁は足部の複雑な欠損部の形態に合わせやすく,経時的に採型靴がつくりやすい形状に落ちついてきます。
筋皮弁の中では,広背筋皮弁を選択しています。肩甲下動脈の枝を利用することで,血管吻合と血行再建のオプションが増えることが最大の理由です。
2)術後の歩行状況
これまでに実施した手術は,血管内治療+広背筋皮弁移植が2例,distal bypass+広背筋皮弁移植が4例で,再建された患者の歩行機能は全例で保たれています。救肢率は100%で,足潰瘍の再発は現在のところありません(最短1カ月,最長40カ月)。
3)その他の効果
distal bypassに広背筋皮弁移植を併用すると,バイパス血管の血流が4~6mL/分増加します。これはバイパス血管の開存に有利に働くとともに,足部の血管網が少ない(run-offが悪い)場合に利点となります。

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