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経腟分娩後の癒着胎盤の取り扱い

No.4773 (2015年10月17日発行) P.60

村山敬彦 (練馬光が丘病院産婦人科科長)

登録日: 2015-10-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

35歳,初産婦。経腟分娩後1時間経っても胎盤が娩出しません。バイタルは安定していますが,出血量が多くなってきました。このような場合はどのようにしたらよいでしょうか。練馬光が丘病院・村山敬彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
左合治彦:国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター長

【A】

(1)嵌頓胎盤と癒着胎盤
経腟分娩後に胎盤が自然に娩出しないとうことは,日常臨床でしばしば経験します。鑑別診断としては,嵌頓胎盤と癒着胎盤が重要です。
分娩に際し,子宮頸管と子宮下節はしだいに開大して児の通過を可能にします。子宮体部は,強く収縮して娩出力を生み出します。このため,子宮下節と子宮頸管は筋層が疎で,子宮体部に比べてゆっくり復古します。正常な分娩では,児を娩出後,子宮体部が収縮して胎盤を娩出し,その後子宮下節と子宮頸管が復古します。
嵌頓胎盤とは,子宮下節が胎盤娩出前に復古してしまい,胎盤が娩出困難になる状態を指します。
癒着胎盤とは,絨毛が脱落膜を介さずに直接子宮筋層と接している状態です。絨毛が直接筋層に接すると,周囲の子宮筋層の血管増生が顕著となり,胎盤を剥がすとコントロール困難な出血を起こすことがあります。リスク因子としては,子宮内膜の欠損を生じるような侵襲的な医療行為の既往が重要で,帝王切開術や子宮筋腫核出術,子宮鏡下手術,子宮内清掃術などを挙げることができます。
(2)癒着胎盤のリスクがない場合
初産で前置胎盤や低置胎盤がないという前提の本症例では,子宮手術の既往がなければ,少なくとも広範な癒着胎盤があるとは考えられません。念のため,超音波検査で胎盤と子宮筋層の境界が鮮明に観察できることを確認して,用手的あるいは機械的に胎盤を娩出してもよいと考えます。範囲の狭い癒着胎盤があっても,子宮体部では筋層が収縮することによる胎盤剥離面の止血が期待できますので,大量出血に至ることはまずありません。
(3)癒着胎盤のリスクがある場合
もし,癒着胎盤のリスク因子となるような既往がある場合には,まず超音波検査を実施し,胎盤と子宮筋層の境界が鮮明に追えるかどうかを確認します。胎盤と子宮筋層の境界が鮮明に追えれば,広範な癒着胎盤の存在は否定的なので,子宮内のバルーンタンポナーデやガーゼパッキングといった止血処置が実施できるように準備して,用手的あるいは機械的に胎盤を娩出してよいと考えます。
胎盤と子宮筋層の境界が鮮明に追えないところがある場合は,癒着胎盤の存在を疑わなくてはなりません。輸血が十分に用意でき,経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)が実施できる施設に搬送するのが望ましいと思います。超音波検査や造影CTで胎盤付着部位筋層に異常な血管増生を認める場合には,ゼラチンスポンジでTAEを実施してから,胎盤を機械的に娩出するのがよいと考えます。異常血管の増生が認められなければ,TAEの準備をした上で機械的に胎盤を娩出し,止血困難な場合にはTAEにより止血をするという方針がよいと考えます。
胎盤娩出に関して,児娩出後早期に介入すべきかどうかということについては,いまだに定まった見解はありません。筆者は,内診により子宮下節の復古が早いと感じる場合には,積極的に胎盤娩出を行っています。

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