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ベーチェット病の病因探求の現状とインフリキシマブの効果

No.4771 (2015年10月03日発行) P.62

北市伸義 (北海道医療大学個体差医療科学センター 眼科学系教授)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

羞明や霧視を訴えて来院し,原因が特定できないまま完治する虹彩炎はよく経験します。しかし,時に治療に抵抗し,ベーチェット病に発展することがあります。ベーチェット病は比較的若年者に好発する,失明率の高い難治性炎症性疾患です。口腔症状,皮膚症状,外陰部症状と眼症状が4主症状ですが,その原因はいまだ不明な部分が多いと思います。新しい生物学的製剤の有効性など治療法の進歩,病因探求の現状について,北海道医療大学・北市伸義先生のご教示をお願いします。
【質問者】
梶田雅義:梶田眼科院長

【A】

ベーチェット病は日本から地中海に至る,ユーラシア大陸の北緯30~45度に多発地域が偏在しており,その分布から「シルクロード病」の別名を持ちます。私たちの世界14カ国25施設の調査では,発症時期は20~30歳代が多く,約23%が失明という難治性炎症性疾患です。
発症には遺伝的要因と環境的要因があると考えられています。遺伝的要因の1つはHLA-B* 51で,日本人ではHLA-A* 26も疾患感受性遺伝子です。2010年にはゲノム網羅的相関解析(genome-wide association study:GWAS)により,IL10遺伝子およびIL23R/IL12RB2遺伝子も疾患関連遺伝子として報告されました。これらはいずれも世界に誇る日本発の研究成果です。一方,環境的要因はいまだ不明で,HLA ClassⅠとの関係から何らかの微生物感染が発症のきっかけではないかと推測されます。
特徴的な世界分布を示すため,私たちはカスピ海から黒海沿岸に至るコーカサス地域の少数民族のダゲスタン人,チェチェン人,アゼルバイジャン人,アルメニア人など,さらにモンゴル高原からアラル海やカスピ海へ至る中央アジア草原地域のカザフスタン,キルギスタン,タジキスタンなどシルクロードの空白地域での調査を続けています。
治療は抗TNF-α抗体インフリキシマブ(レミケードR )で劇的に変わりました。従来,コルヒチンは効果が弱く,ステロイド全身投与は減量後に眼発作をかえって頻発させ,シクロスポリンはある程度発作回数を抑制するものの効果は不十分な上に,神経ベーチェット病を誘発しました。
インフリキシマブは2007年に世界で初めて本病に対して日本で保険適用され,既に臨床現場で用いられています。この生物学的製剤の効果は大きく,これまでどの治療でも効果が不十分であった患者の90%で眼発作をほぼ抑制できます。課題として結核や肝炎など感染症の厳重なスクリーニング,発疹や呼吸困難など投与時反応への対処,8週ごとの点滴通院,薬剤が高額(1回およそ50万円),一部に効果減弱などがあり,導入・実施は本病の治療に精通した少数の大学病院などで行われているのが現状です。
日本以外では現在も本病に対する保険適用は得られていませんが,その効果は本病の治療革命と言えるほど大きなものです。多くの若い患者さんが本病による失明から免れうるよう,該当の患者さんがいらっしゃいましたらご相談頂ければと思います。

【参考】

▼ 大野重昭,他:日眼会誌. 2012;116(4):394-426.

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