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小児の顔面神経下顎縁枝麻痺に対する手術治療の時期とコツ

No.4753 (2015年05月30日発行) P.61

宇田川晃一 (千葉県こども病院形成外科部長)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

顔面神経下顎縁枝麻痺は腫瘍切除後などだけでなく,小児の先天異常としても目にします。筋膜移植を行う宇田川法が優れた方法だと思いますが,術後に矯正が不足や過剰となる症例を経験しました。成人例では局所麻酔下に表情をつくりながらの修正手術ができますが,小児ではこれも難しくなります。
手術に適した年齢と,筋膜を縫着する位置,術中の過矯正の程度など手術のコツについて,千葉県こども病院・宇田川晃一先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐々木 了:KKR札幌医療センター斗南病院 形成外科/血管腫・血管奇形センター長

【A】

小児の先天性顔面神経下顎縁枝麻痺は,asymmetric crying facies(ACF),下口唇麻痺,口角下制筋麻痺などと呼称される疾患です。私が行っている手術方法(文献1) は,麻痺側の下口唇に縦と横2方向に筋膜を移植し,閉口時を含めた非対称を改善して下口唇を動かす手術方法です。
この方法を考案し,治療を開始してからおよそ20年が経過し,長期経過についても安定した結果を確認することができ,2014年春の第57回日本形成外科学会で報告しました。受診患者は年々増加し,施術数も30件を超えるようになり,具体的な手術方法については結果を見ながら多少の改良を行ってきましたが,基本的には2007年の報告(文献1)通りに施術しています。以下,具体的にご質問に答えていきたいと思います。
(1)手術年齢
至適手術時年齢については不明ですが,報告した通り,自然治癒のないことを確認し2歳以降であれば施術しています。術後短期間の経過では,小学校高学年以降に手術を行ったほうが(特に患側下口唇の外側あるいは外下方への動作,最大開口時の対称性など),再建された環境への適応が良い印象がありますが,長期的に見ると幼児期に施術しても経時的に徐々に適応していくようです。このあたりの事情は家族にも十分に説明したほうが,術後経過についての不安などの解消につながると思います。
(2)筋膜の縫着,過矯正
横方向の筋膜移植は,過去に報告された術式との違いから,本法の要であり,下口唇の対称性獲得のために大きな役割を果たしていると推測しています。
筋膜の縫着については,口輪筋上縁前面に横方向に筋膜を移植する際には,健側に偏位した下口唇正中を本来の位置に戻すように正中・患側口角間に筋膜を牽引縫着します。また,筋体・筋膜には2~3針固定のための縫合を追加して術後のずれ,緩みを予防します。横方向の筋膜移植,固定が完了した後,横方向の筋膜中央に縫合固定した縦方向の筋膜は口輪筋後面を通して下端を下顎縁付近の骨膜に縫合固定することになりますが,こちらは赤唇縁の位置が健側と同じになるように縫着します。
以上が私の実際の手術手順ですが,修正手術が必要になった場合の難しさを考えて,過矯正は行っていません。経験は少ないのですが,成人例では多少術後に緩みやすいとの印象を持っていますので,過矯正を考慮してもよいのではないかと考えています。
しかし,小児では再手術が必要となるような緩み方を経験していません。また,この術式は健側とまったく同じ表情ができるようになる仕組みをつくる術式ではありませんので,最大開口時に残る非対称(矯正不足,患側が下がらないように見える)の改善は,麻痺のない健側,患側周囲の表情筋群の動きのコントロールができるようになると,予想を上回って出現するようになるのだろうと認識しています。

【文献】


1) Udagawa A, et al:Plast Reconstr Surg. 2007;120(1):238-44.

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