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出生前診断における超音波検査も含めた各種検査法

No.4746 (2015年04月11日発行) P.55

金川武司 (大阪大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT)が臨床研究として,認定・登録された施設において開始されました。母体血を用いた簡便な検査で,希望する妊婦さんもいます。しかし,出生前に行われる検査や診断には胎児の生命に関わる社会的・倫理的に留意すべき多くの課題があり,目的,意義や結果の解釈を夫婦のみならず医師も十分に理解することが重要と思います。出生前に行われる超音波検査も含めた各種検査法について,大阪大学・金川武司先生のご教示をお願いします。
【質問者】
近藤英治:京都大学医学部婦人科学・産科学教室講師

【A】

出生前診断における検査法には,大きくわけて,ほぼ確実に胎児疾患を診断できる確定的検査と,あくまでも胎児疾患の可能性の高さを推測する非確定的検査があります。
(1)確定的検査
確定的検査には,絨毛検査や羊水検査が挙げられます。ともに,胎児染色体や胎児遺伝子疾患の確定診断に用いられます。絨毛検査は,妊娠11週以降に,経腹的あるいは経腟的に絨毛を採取し検査を行います。一方,羊水検査は妊娠15~16週以降に,経腹的に羊水を採取し検査を行います。いずれの検査も侵襲的検査で,それぞれの検査に伴う流産率は約1/100,1/200~1/300です。
(2)非確定的検査
非確定的検査として,NIPT,血清マーカー,ソフトマーカーを用いた超音波検査があります。
NIPTは妊娠10週以降に可能な検査で,母体血中に流れる胎児由来cell-free DNAを用いて胎児染色体を推測する方法です。感度・特異度ともに99%ですが,「精度99%」と報道されたため,検査結果の解釈に誤解が生じた検査です。検査結果の解釈にあたり,感度・特異度ではなく,陽性的中率(結果が陽性のときに,本当に胎児染色体異常である確率)・陰性的中率(結果が陰性のときに,本当に胎児染色体が正常である確率)がむしろ大切です。母体年齢によって異なりますが,ダウン症についての陽性的中率は80~90%であり,決して99%ではありません。ただし,陰性的中率は99.9%と非常に高い検査です。
血清マーカーは,妊娠11週もしくは15週以降に母体血中の生化学的物質の値を計測し,胎児染色体異常を推測する方法です。NIPTと同様,母体血で検査を行えますが,精度は劣ります。
ソフトマーカーを用いた超音波検査は,妊娠11 ~13週に胎児後頸部皮下透明領域(nuchal trans-lucency:NT)などのソフトマーカー(異常ではないが,胎児染色体異常にみられる超音波所見)を用いて,胎児染色体異常を推測する方法です。NTはどの胎児にもありますが,肥厚が増加すると胎児染色体異常の可能性が上昇する特徴があり,肥厚の程度により胎児染色体異常の確率が計算できます。ただし,このNTの計測方法には決まったルールがあり,訓練を必要とするため,産婦人科医すべてができる検査ではありません。
いずれにしろ,非確定的検査の結果の解釈として,これらによって得られる染色体異常の確率が絨毛検査の流産リスク(1/100)もしくは羊水検査の流産リスク(1/200~1/300)を上回る際に,絨毛検査や羊水検査が行われます。
(3)出生前検査施行時の留意点
これら出生前検査は,いずれも,“命の選別”につながるとの考え方もあり,社会的・倫理的に留意すべき点が多々あります。医療提供者は,妊婦家族の希望に基づき,わが国の法律と倫理が規定するルールにのっとり出生前診断を行う必要があり,児の予後,治療の効果,生後社会から受けられる支援などについて専門的知識を有した医療スタッフによる事前・事後の(診断検査実施前後の)「遺伝カウンセリング」などの適切なカウンセリングが重要となります。また,絨毛検査や羊水検査には流産などの重大な危険を伴うため,事前のインフォームドコンセントが必須です。

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