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病気を抱えて生きる患者・家族をどう支援するか [お茶の水だより]

No.4780 (2015年12月05日発行) P.11

登録日: 2015-12-05

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▼1型糖尿病の7歳男児のインスリン治療を中断させ、死亡させた疑いで、自称祈祷師の男が逮捕された。報道によれば、男児は昨年11月に同病と診断。「不治の病を治せる」と話す容疑者に母親が相談を持ちかけた。容疑者は今年4月から投薬を中断させ、男児は同月、適切な医療を受けないまま死亡した。
▼わが国の1型糖尿病患者数は人口1万人当たり2人程度(糖尿病患者全体の5%程度、欧米の20分の1以下)にとどまっている。1型糖尿病に詳しい坂根直樹氏(京都医療センター)は「1型糖尿病を100人以上診療している医療機関は少なく、同病に十分な臨床経験を積んだスタッフや指導者は非常に少ない」と指摘している(日本医事新報.2013;4666:11-16)。1型糖尿病は病初期を除き「インスリン分泌欠損症」であり、治療の本質はインスリン分泌欠損の適切な補充。患者はインスリン注射を生涯続けることになるが、食事については特に制限はない。
▼インスリン注射は身体に毒だとして、男児にハンバーガーを食べさせていた容疑者は、治療の本質を全く踏み外していた。それに従った両親は、男児が「インスリンの注射を嫌がり、かわいそうだった」と話しており、病気の不安や苦しみを抱え、主治医らに相談することもなく、閉塞した人間関係の中で心理的に追い込まれていった様子が窺われる。
▼我が子を想ってのこととは言え、両親の行為は“医療ネグレクト”に当たる。治療中断に陥りやすい心理を理解し、患者・家族が糖尿病であることを受け入れ、病を抱えて生きていける強さを養うため、医療側の支援・介入の必要性を改めて考えさせられる事件であった。(1型糖尿病発病時の患者・家族の「悲哀の仕事」をスムーズに通過させる配慮については、前述の文献を参照されたい)

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