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地域包括ケアに「宗教的」視点を [お茶の水だより]

No.4723 (2014年11月01日発行) P.13

登録日: 2014-11-01

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▼浄土真宗本願寺派は、僧侶や門徒の医師たちが中心となり「西本願寺医師の会」を発足させるという。サンスクリット語で「心身の安らぎ」などを意味する「ビハーラ(Vihara)」の思想に基づき、死や病気に直面した患者の苦悩に寄り添える医師を増やすことを目指す。同派は1987年に緩和ケア専門の病院を京都府内に開設、僧侶が常駐し終末期ケアにあたっているが、ともに「生・老・病・死」を扱う仏教と医療の連携をさらに広めていくことを目指している。
▼『日本書紀』によれば、聖徳太子が593年に建立したとされる四天王寺には、「施薬院」「療病院」「悲田院」という現代の病院や薬局、介護施設が設置されている。人々の苦悩を和らげるという点において、医療と宗教は不可分なものであった。しかしその後、17世紀の哲学者デカルトが唱えた「物心二元論」の影響などから、精神と物質は切り分けて捉えることが“常識”となり、その結果、科学は飛躍的進歩を遂げ、現代医学は人類に長寿をもたらした。
▼その反動だろうか、現代医学の恩恵を存分に受けたわが国では、超高齢社会の到来に備えた「病院から在宅へ」という医療政策の転換を背景として、死に向かうプロセスへの関心が高まっている。中でも、患者や家族に対し、死への不安や恐怖、悲しみにどう寄り添うのか、という「スピリチュアルケア」は、病院死が多かったこれまでは強く意識されてこなかったが、在宅推進に伴い死との向き合い方が変化したためか、ニーズが増えているようだ。
▼2007~08年に宮城、福島両県内の在宅で死亡した患者遺族に尋ねたアンケート調査では、他人には見えない人や風景について語る「お迎え」体験があったとする回答が4割を超えた。春秋の彼岸には墓参りをし、祖先や家族に日々の報告をする日本人が、思い出の詰まった自宅で最期を迎えるのであれば、「お迎え」のような霊的体験をするのも頷ける。
▼こうした医療現場に潜在する「宗教的ニーズ」を踏まえ、東北大は12年に寄附講座を設置。お迎え体験を始めとするスピリチュアルケアに向き合う「臨床宗教師」養成プログラムを展開するなど、医療と宗教の連携は徐々に広がっている。最善の医療を尽くす医療関連職種と死を見つめる人に手を差し伸べる「宗教者」が連携し、最期を看取る。スピリチュアケアにかこつけた勧誘など負の側面に注意しなくてはならないが、在宅を軸にした地域包括ケアにおいて、「宗教的」視点は必要ではないだろうか。

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