株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「アジア太平洋地域の家庭医療推進に向けて①」草場鉄周

No.5225 (2024年06月15日発行) P.60

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2024-05-22

最終更新日: 2024-05-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

昨年の秋から世界家庭医機構(WONCA)のアジア太平洋地域(Asia Pacific Region:APR)を所管する国際学会の役員を拝命し活動している。具体的には財務担当理事として、学会活動の財務面からのサポートや経済的に恵まれていない地域から国際学会に参加を希望する方への奨学金提供などが業務である。今年の8月にシンガポールにて学術集会が開催されるので、現在その奨学生選定の最中である。

この作業で各国の若手家庭医の履歴書とビデオメッセージを確認していくのだが、彼らの純粋なモチベーションの高さと貪欲さが印象的だった。国際学会で知識や技術を吸収するのはもちろんのこと、多くの参加者と交流してアジア・太平洋の若手家庭医とのネットワークを築きたいという熱意には心が動かされるものがある。筆者も20年ほど前に初めて国際学会に参加したときには、同じような思いで参加したことも思い出す。

当時の日本では総合診療や家庭医療という言葉自体の認知度が非常に低く、自分の選択が正しかったのか漠然とした不安がよぎることも少なくなかった。研修中に真顔で「何か専門性を究めた後に開業すればいいのに」と諭されることもめずらしくない時代である。そんなときに、ニュージーランドのクライストチャーチで開催されたWONCA APR学術集会に参加する機会を得た。そこで見えた風景は実にまぶしく、大きな衝撃を受けた。

アジア各国やオーストラリア、ニュージーランドで当たり前のように家庭医が地域医療の現場で活躍し、政府の医療政策を担う中心的な医師として大きな期待を受けている現実。若手医師の教育のためにベテラン家庭医が熱のこもった講義やワークショップを提供する、緊張感の中に温かさのこもった雰囲気。日本の厳しい現状に強い共感を示してくれる各国の家庭医は「我々の国も課題をたくさん抱えている。ただ、この領域の重要性を信じて地道に取り組めば、必ず道も開けてくるから、日本の皆さんも一緒に頑張ろう」と励ましの声をかけてくれた。この言葉にその後どれだけ救われただろうか。

6月7〜9日に浜松で開催された日本プライマリ・ケア連合学会では、WONCA Worldの前会長、WONCA APRの会長、総務担当理事をおまねきし、「アジア太平洋地域の家庭医療推進に向けて」と銘打ったシンポジウムを開催した。次回は、このシンポジウムについてご報告したい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top