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米国における高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(23)]

No.5222 (2024年05月25日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-05-23

最終更新日: 2024-05-21

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●高病原性鳥インフルエンザとは1)

高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza:HPAI)Aは,A型インフルエンザウイルスに感染した家禽による感染症のひとつです。感染した鳥との接触や水,排泄物等を介して感染し,神経症状,呼吸器症状,消化器症状等を呈します。鳥インフルエンザウイルスは,通常,ヒトに感染することはありません。しかしながら,感染した鳥に触れるなどの濃厚接触をした場合,きわめて稀に鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染することがあります。また,既存の抗ウイルス薬の耐性の報告もあり,重症な経過をたどる場合もあります。世界的にみてもヒトからヒトへの持続感染の事例は報告されていませんが,今後,ヒトからヒトへの持続感染を認めた場合,ネクストパンデミックになりうる感染症のひとつとして注視されています。

日本においては,高病原性鳥インフルエンザAのうち,H5N1とH7N9の2つが感染症法で二類感染症に指定されており,診断した医師は直ちに届け出を行う必要があります。なお,2024年4月末時点で,日本においてはヒトに感染した高病原性鳥インフルエンザAの報告はありません。

●米国における高病原性鳥インフルエンザのヒトへの感染例2)

2024年4月1日,テキサス州で高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)へ感染したと思われる乳牛と接触した酪農場の関係者の結膜検体からH5N1が検出されました。症状は結膜炎のみでした。既存の抗インフルエンザ薬への耐性変異は確認されず,抗インフルエンザ薬を投与され軽快しました。本症例は,米国において2022年以降,2例目のヒトに感染したH5N1症例でした。米国においては,2024年3月以降に,家禽や野鳥から複数の高病原性鳥インフルエンザA(ほとんどがH5N1もしくはH5亜型)が報告されているため,今後もヒト感染事例が報告される可能性があります。

●米国における公衆衛生上の対応状況2)3)

米国CDCは,米国農務省(USDA),食品医薬品局(FDA),地元の保健当局を含む州および連邦機関と緊密に協力し,この状況をさらに調査し,注意深く監視しています。また,米国CDCは,ヘルスアラートネットワークにて,臨床医や州保健局,畜産関係の労働者,一般市民に対しての提言が含まれた文書を発出しました。特に一般市民に対しては,高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの感染が疑われる,または確認された動物への無防備な接触のみならず,生あるいは加熱不十分な食品,または未殺菌(生)牛乳や生チーズなどの関連する未加熱食品の摂取を避けるよう勧告しました。

●感染拡大のリスク

2024年4月末時点では一般市民に対するリスクは引き続き低いと評価されています。しかし,乳牛,生乳および生乳生産,家禽,食肉処理に職業的に携わっている人々はリスクが高いと考えられています。日本においても,家畜に関連したヒトでの鳥インフルエンザが発生する可能性があるため,注視が必要です。

【文献】

1)厚生労働省:鳥インフルエンザについて. (2024年5月1日アクセス)

2)米国CDC:米国における高病原性鳥インフルエンザA (H5N1). (2024年5月1日アクセス)

3)米国CDC:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1):ヒトへの感染の確認と調査および対応への提言. (2024年5月1日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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