6月からの診療報酬改定において、救急領域で注目される変化があった。救急患者連携搬送料が新たに設けられ、医師や看護師、救急救命士が救急車に同乗して自院の患者を他院に搬送した場合、報酬が得られるものである。
想定しているのは下位搬送である。三次救急医療機関に救急搬送された患者で、地域の医療機関でも対応が可能と判断された場合には、下り搬送を行うことはこれまでもあった。しかし公的な救急車を利用するには、本来の目的を逸脱しており、自治体ごとに転院搬送を極力避けるための努力がなされるのが実情で、かと言って医療従事者に対するインセンティブも働かない状況であった。このたびの改定では、入院中の患者以外の患者の場合1800点、入院1日目の患者の場合1200点、入院2日目の患者の場合800点、入院3日目の患者の場合600点が算定可能となり、病院で働く救急救命士が報酬を得られる貴重な機会となった。
これはかなり画期的なことだと評価している。一方で、なぜこのような加算がなされたのかという流れに目を向けておかなければ、下り搬送を受けることになる地域の二次救急病院は、この先起こりうる変化に乗り遅れるのでその点を指摘しておきたい。
下り搬送を是とする診療報酬がつくられた背景には、救命救急センターなどに搬送されたものの、そのままそこに入院するのが相応しくないと考えられる患者群が想定されている。端的に言えば高齢者施設からの救急患者である。このたび、介護報酬の改定もなされており、それに伴い特養や老健など介護施設に後方支援の協力医療機関の選定が義務づけられた(4月からの3年間は経過措置で努力義務にとどめられた)。コロナ禍で入院先が見つかりにくくなったことも影響していると考えられる。厚生労働省による運営基準の解釈通知において、想定される医療機関は、「入居者の病状の急変時等に、相談対応や診療を行う体制を常時確保した協力医療機関」とされ、「在宅療養支援病院や在宅療養支援診療所、地域包括ケア病棟(200床未満)を持つ医療機関等の在宅医療を支援する地域の医療機関」と示されている。なお、このたび新設された地域包括医療病棟を有する医療機関は連携対象外とされるようである。したがって、働き方改革が進む中ではあるが、普段積極的に救急をやっている病院以外で高齢者施設と直接連携することが求められており、相談や診療を常時行える体制を実現しなくてはならないのである。
仮に三次医療機関等に搬送された場合、協力医療機関への転院を進めていく体制を考えており、こちらについても、随時患者の転院搬送に対応していく必要がでてくる。地域の中小病院には、救急患者の受け入れ体制強化までは求められていないが、新興感染症も含めた急性期医療の機能も維持するという、絶妙なバランスが求められる。また、地域内での連携強化も重要である。もともと2025年を目処に地域包括ケアシステムの構築をめざしてきたが、いまだうまくいっていないというのが正直なところであろう。今回の診療報酬改定で、それを一気に進めて行くという厚生労働省の思惑を強く感じている。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[救急患者連携搬送料][地域包括ケア]