株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「感染症流行対策における感染者・患者を排除する考え方からの脱却を期待したい」西條政幸

No.5205 (2024年01月27日発行) P.58

西條政幸 (札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2024-01-11

最終更新日: 2024-01-11

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2年にわたる本連載への投稿の最後に、感染症対策で大切だと思っている個人的考えを述べたい。

過去15年間に世界規模で流行した感染症を列挙すると、季節性インフルエンザウイルス(H1N1)2009pdmによるパンデミック、デング熱の日本国内流行、西アフリカにおけるエボラウイルス病流行、アメリカ大陸でのジカウイルス感染症流行、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やエムポックスの世界規模流行等々、多くの事例がある。

医師、ウイルス学研究者、国・地方の行政職として働いてきた者として、流行対策のあり方を考えてみる。

まず、感染者・患者を隔離することを基本とした感染症流行対策について。

COVID-19流行対策においては、入院治療が必要な患者に対して入院可能病床が少なく、その治療を提供することができない事例が発生した。一方で、COVID-19は感染症法上で隔離が必要な疾患に指定されたことから、検査等でCOVID-19患者と診断されている患者の受け入れをしないという医療機関の判断が正当化される側面も認められた。現実にCOVID-19に罹患したことで、多くのCOVID-19患者が医療機関で診療を受けることができなくなるといった事態が生じた。

次に水際対策について考えてみたい。たとえばデング熱の国内流行について考えると、ウイルス血症状態の者で症状を呈する者は10人に1人程度、無症状の人がほとんどであることから、発熱者を対象に空港等でスクリーニングを実施したところで国内へのデングウイルスの侵入を防ぐことはできない。2009年のH1N12009pdmによるパンデミック時のことやCOVID-19、エムポックスの世界規模流行と国内流行を思い浮かべても、水際対策の効果はなきに等しいか、あったとしても限定的である。

2020-2021年と2021-2022年シーズンに季節性インフルエンザの流行が起きなかったのは、COVID-19の世界規模流行のために、海外から日本国内への入国者が途絶えたことによる(と私は考えている)。空港や港湾などの場で、感染者の特定と入国状況を調査することの必要性は否定しないが、それは感染症流行調査とそれに基づく対策方法の検討のため、そして患者・感染者への適切な医療の提供のためになされるべきではないだろうか。

簡単なことではないと思うが、感染者・患者を「隔離」する、感染者・患者の海外からの「入国を阻止」する、というような感染者・患者を社会や国内から排除することを前提とした対策から、感染者・患者が人間としての尊厳と権利が尊重され、社会から排除されることなく、適切な医療が受けられることを前提とした感染症対策に変えていくための議論が進められることを期待したい。

西條政幸(札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)[患者・感染者の隔離][入国阻止による水際対策]

ご意見・ご感想はこちらより


関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top