東アジア人の乳癌女性がアロマターゼ阻害薬(AI)を服用すると、タモキシフェン(TAM)に比べ心房細動(AF)発症リスクが高まる可能性があり、また脳梗塞リスクも上昇傾向を示すことが明らかになった。香港における大規模コホート解析の結果として、クイーン・メアリー病院(香港)のIsaac Ho氏らが12月5日、JACC Asia誌で報告した。
わが国では2019年、10万例弱が乳癌と診断されている。5年生存率は90%を超え、サバイバーは多い(国立がん研究センター「がん情報サービス」)。また術後のAI/TAM継続期間は5~10年の長期にわたる(乳癌診療ガイドライン2022年版)。
今回の解析対象は香港で、乳癌後AIあるいはTAMの単剤を服用した3316例(AI:2487例、TAM:829例)である。「心室細動/粗動・AF」診断歴のある例は除外されている。全国公立医療機関の診療情報レジストリからAI服用4878例とTAM服用829例(全5707例)を抽出後、傾向スコアでマッチさせた。平均年齢は60歳。25.9%が高血圧、9.2%が糖尿病を合併していた。
これら3316例における「不整脈」と「脳梗塞」の発生率と発生(診断)リスクをAI群とTAM群で比較した。観察期間平均値は3.56年だった。
・不整脈
まず「心室細動/粗動・AF」発生リスクには、両群間で有意差はなかった。ただしAFのみのハザード比(HR)は、AI群でTAM群に比べて有意に高くなっていた(2.18、95%信頼区間[CI]:1.01-4.70)。発生率は0.59 vs. 0.27/100人年である。
・脳梗塞
脳梗塞発症率もAI群でTAM群に比べ高い傾向を認めた(0.57 vs. 0.27/100人年)。ただしリスクの差は有意に届かなかった(HR:2.13、95%CI:0.98-4.59)。なお脳梗塞発症例に占めるAF新規発症者の割合はAI群26.5%、TAM群12.5%だった(有意差なし)。
AIでAFリスクが上昇する原因をHo氏らは、エストロゲンによる抗不整脈作用が減弱するためと考えているようだ。その上で、AI服用乳癌例では(1)無症候性AFの見逃しに気をつけ、(2)必要に応じて抗凝固療法を考慮するよう呼びかけている。
本研究はLi Shu Pui Medical Foundation Fellowship/Dean’s Fundからの資金提供を受けた。