「眼球に作用した鈍的外力は,眼窩壁に骨折を生じさせると同時に副鼻腔に吹き抜け,結果的に眼球が守られる」,いわゆる「眼窩吹き抜け骨折(blowout fracture)」という力学的概念を提唱したのがSmithとReganである。眼窩壁骨折の主な症状は,受傷眼の眼球運動障害に伴う複視と眼窩脂肪の副鼻腔への脱出に伴う眼球陥凹である。眼窩壁骨折を示唆する症状に,鼻出血や鼻をかんだ後に生じる眼球突出や眼瞼腫脹がある。下壁骨折で眼窩下神経溝を含む骨折があれば,頰部や口腔内の知覚麻痺が生じる。本疾患を疑えば,鼻を1~2週間強くかまないように指示する。
眼打撲の既往→複視などの症状あり→眼球運動精査→眼窩CT検査→骨折タイプ同定→手術適応と時期を決定,が診断から治療の流れとなる。
①眼打撲の既往:骨折の発症にはそれ相当の力学的エネルギーが必要である。受傷機転は多彩であるが,野球ボール大の飛球や空手・ボクシングのパンチが強く当たった場合に多い。競技中に相手の身体の一部が衝突した場合や,顔面から壁や床に衝突した場合にも起こりうる。
②症状の検出:徐脈,嘔気・嘔吐などの迷走神経反射症状を呈するものから無症状のものまである。外眼筋が骨折部に強くはさまったり,引っかかったりすると著明な眼球運動障害と迷走神経反射症状を生じる。鼻出血,頰部の知覚鈍麻があれば骨折を強く疑う。
③眼球運動の精査:Hess赤緑試験を行い,結果をヘスチャートに記載する。これにより,眼球運動の方向や障害の程度を把握する。両眼単一注視野検査を行い,両眼開放した状態での単一視領域を検出する。
④眼窩CT検査:骨条件,軟部組織条件での水平断,冠状断,矢状断を撮影する。矢状断は視神経に水平な断面で画像構築する。骨折がはっきりしない場合には,MRIで脂肪脱出の有無を確認するとよい。眼窩の骨折しやすい部位は眼窩下壁と内壁で,両壁が同時または別々に骨折することがある。稀ではあるが,上壁にも骨折を見ることがある。また,頰骨骨折では眼窩外縁,下縁とともに下壁が骨折する。
⑤骨折タイプの同定:骨折のタイプには閉鎖型と開放型がある。前者はトラップドア型とも呼ぶ。CT画像と症状から両者を区別する。さらにCT画像で,閉鎖型を筋絞扼型と脂肪絞扼型に分類する。閉鎖型は開放型に比べて眼窩壁の偏位が少ない割に症状が強く出る。一方,開放型は眼窩脂肪と外眼筋が副鼻腔内に著明に脱出しているものを指すが,受傷後は自覚症状がみられないか軽度であるものも多い。しかしながら,時間経過とともに脂肪と副鼻腔粘膜の癒着が進行することで複視が出現する。
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