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“種まきトライアル”って知ってますか?─販売促進を目的とした臨床試験に“NO”を [J-CLEAR通信(62)]

No.4793 (2016年03月05日発行) P.42

桑島 巖 (臨床研究適正評価教育機構〈J-CLEAR〉理事長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • “種まきトライアル”という言葉をご存じであろうか。英語では“seeding trial”と言うが,その名の通り,新薬が市場に出て芽が出るように種をまくための臨床試験ということである。最近の医師主導型臨床試験と称される臨床研究の中には,この種まきトライアルが非常に多い。医師主導とは言っても,大半は企業により経済的支援を受けており,実態としては企業からの依頼か,あるいは研究者が企業に持ちかけたことによって企画・実施されている臨床試験が多いのが実情である。

    近年,その不正問題が明らかになったKyoto Heart StudyやJikei Heart Studyなども,実態は種まきトライアルである。そして,種まきトライアルのやっかいな点は,研究者,企業ともに種まきトライアルであることを自覚していないことである。

    種まきトライアルが横行する理由

    製薬企業は,人類を疾病から救うために膨大な量の医薬品を開発し,治療薬として世に送り出してきた。我々医師,特に内科医はその薬を治療手段として利用させてもらうことで診療行為を行ってきたわけである。新しい治療薬や予防薬が開発されたために,かつて難病と言われた疾患も,治癒したり予防したりできる時代になり,企業による薬の開発が人類の健康長寿に大いに貢献したことには疑いの余地はない。

    一方,これらの新薬を生み出すための開発費を捻出するには,企業は営業利益を上げなければならない。しかも,新薬の特許期間は約10年であり,この間に利益を生み出さなければ,企業として成り立たない。さらに,新薬開発では多くの場合,数社が競合する。ここに激しい販売合戦が生じる理由がある。その戦略の1つが種まきトライアルである。

    種まきトライアルの本当の目的は,試験の仮説の証明ではなく,企業が販売したい医薬品や医療機器のコンセプトを医師に植え込み,処方動機を促進することなのである。したがって,研究目的は科学的にはほとんど意味のないものが多い。そこで,種まきトライアルが,企業,研究者双方にどのようなメリットをもたらすために行われるのか,整理してみたい。

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