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【識者の眼】「いわゆる“風邪”の研究とCOVID-19の研究:流行不易」西條政幸

No.5181 (2023年08月12日発行) P.59

西條政幸 (札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2023-08-02

最終更新日: 2023-08-17

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今年の日本ウイルス学会学術集会(第70回)が、会長・西村秀一博士(仙台医療センターウイルスセンター長)のもとで9月26〜28日に仙台で開催される。

西村博士は私の敬愛する先輩の1人である。造血幹細胞移植患者における呼吸器ウイルス感染症に関する研究では大変お世話になった。造血幹細胞移植病棟ではパラインフルエンザウイルス3型による院内流行が起こりやすいことを、西村博士らとともに明らかにすることができた1)

私は今から35年前にウイルス研究を始めたが、私にウイルス学をご指導下さった先生が前仙台医療センターウイルスセンター長の沼崎義夫博士であり、私の大切な恩師の1人である。沼崎博士は、96wellのマイクロプレートに4種類の細胞(HEL細胞、Hep-2細胞、Vero細胞、MDCK細胞)を培養し、上気道症状のある患者(小児)の咽頭スワブから多くの種類の呼吸器ウイルスを分離する、いわゆるHHVMマイクロプレート法を開発し、それを用いて上気道炎の研究を精力的に進められた。

当時から上気道炎、いわゆる風邪は「どうせ治る疾患だから」と、なかなか研究がなされてこなかった。また、ウイルス分離法による研究には費用と労力がかかり、上気道炎の研究には大変な困難があった。労力をいとわず検体を適切に採取してくださる共同研究者(多くは臨床医)の存在も欠かせない。沼崎博士はそのような困難な研究であっても、上気道炎研究を大切にされた希有な研究者の1人である。

科学が進化した割には、これまで呼吸器ウイルス感染症研究はなかなか進んでこなかったのが実状である。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経験して、その考え方は大きく変わったのではないかと思う。新しい技術を導入して効率的に、また正確に呼吸器ウイルス感染症に関する研究が進められること、同時に、古典的な手法としての細胞培養に基づくウイルス分離法を駆使して研究が進められること、その両輪で呼吸器ウイルス感染症研究が益々発展することを期待したい。COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の今後の特徴の変化、変異の推移、引き起こす疾患の病理・病態に関する継続した研究が求められる。その研究により、ヒトにおけるコロナウイルス感染症の進化の一端を解明することが可能になるかもしれない。

西村博士は今年の学術集会のテーマに「流行不易〜変わるもの変わらぬもの〜」を掲げておられる。COVID-19流行を経験して、呼吸器ウイルス感染症研究のあり方や重要性は変わったものもあるが、変わらぬものもあるはずである。研究においては革新された技術と古典的な手法を組み合わせて、研究が長期にわたって継続されることが必要である。今、「流行不易」という言葉の意味を改めて考えている。

【文献】

1)Kakiuchi S, et al:Jpn J Infect Dis. 2018;71(2):109-15.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/71/2/71_JJID.2017.424/_pdf/-char/en

西條政幸(札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)[呼吸器ウイルス感染症]

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