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【識者の眼】「新型コロナとの闘い③─大学の方向を示す(2020年4月)」田中雄二郎

No.5175 (2023年07月01日発行) P.55

田中雄二郎 (東京医科歯科大学学長)

登録日: 2023-06-22

最終更新日: 2023-06-22

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東京医科歯科大学の学長就任挨拶で、首都東京にある医療系国立大学としてコロナ対応に背を向ける選択肢はない、正面に立つ医学部附属病院を全学で応援し、取り組むことを呼びかけた。

しかし当時の状況は……というと、本学は医療系に特化した国立大学だが、教育面での学内連携は教養教育やチーム医療教育など一部に限られ、研究は「学問の自由」。診療面では、医学部附属病院と歯学部附属病院の統合協議が進んではいたが、連携はまだ途上にあった。

そこで学長として、大学を1つにまとめるために何をすべきかと考えた末に、「力を合わせて患者と仲間たちをコロナウイルスから守る」をテーマにメールで全職員に呼びかけようとし、「患者と職員を守る」と書きかけたが、学長1人だけで職員を守れるわけでもない。そこで「お互いを守る」という意味で、甚だ大学には似つかわしくない「仲間たち」という言葉を選んだ。これが結果的には、自発的な行為を次々と生み出すこととなり、非常に良かったと思う(次回に記載)。

その「仲間たちを守る」という方針で、①PPE(個人用防護具)を確保する、②入院患者全員に入院前PCR検査を実施する、そして③コロナ対応職員に定期PCR健診を行う、の3点を約束した。当時は保健所がPCR検査を担当しておりキャパシティも小さく、事前確率が低いのに検査を実施する意味があるのか、と疑問が呈された時期でもあった。偽陰性の問題は再検査で対応することとしたが、検査の外注は手一杯で無理。

最も肝心な学内のPCR検査体制が整わない。何度会議を開いても、完璧を期す議論の堂々巡りで決まらない。コロナ患者用のベッドを確保したが、受け入れ体制も整わず入院患者は増えず、かえって病棟には焦りが生じた。外来対応もテントか歯学部附属病院の陰圧治療室か、外来診察後のレントゲン・CT検査をどうするかなど、医療安全を徹底してきた大学病院の特性が災いしてなかなか動けない。会議は深刻な雰囲気が漂う場になってしまった。

この暗く重い空気を換えるためにウィークデイには、メルマガ『コロナ対策通信』を毎日発行し、病院で始めた朝のオンラインによるコロナ会議には200人以上が参加するようになり、その場で「試行錯誤を大切にしよう」「責めるより応援しよう」と繰り返し、繰り返し呼びかけた。これが功を奏してみんなが失敗を恐れなくなり、未知のウイルスと闘う仲間たちの活動を共有することで、「自分には何ができるか?」を一人ひとりが考え、行動できるようになり、「『仲間たち』を守る体制」が整った。

田中雄二郎(東京医科歯科大学学長)[新型コロナウイルス感染症]

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