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【識者の眼】「ジャニー氏性加害問題を産婦人科医が考える」稲葉可奈子

No.5168 (2023年05月13日発行) P.59

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-04-28

最終更新日: 2023-04-28

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ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏による性加害を元事務所メンバーが告発しました。これは単なるエンタメの話題ではなく、2つの重要な問題点があります。

1つは性被害について。

日本では包括的性教育が十分に行われておらず、性的な知識はおろか、性的同意についても学ぶ機会がありません。にもかかわらず、性的同意年齢が13歳とされています。つまり、法的には、13歳で性的な行為について自分で判断して同意できる、とされているのです。なにも教えていないにもかかわらず、です。

危険を知らないと身を守ることもできませんし、知らずに加害者になってしまう可能性もあります。

性的同意年齢の引き上げが議論されていますが、引き上げだけでなく、包括的性教育がちゃんとなされ、その完了と性的同意年齢が一致しないといけません。

もう1つは、メディアが報じていないことです。1999年に週刊誌が報じたにもかかわらず当時もメディアは報じず、今回告発した方も、もし入所前にその事実を知っていたら事務所に入らなかったのでは、と話しており、忖度して重要な話題を報じないメディアの責任は重いといえます。

今回の告発を唯一報じたのがNHKですが、HPVワクチンについて大手メディアがまったく報じない、もしくは両論併記でしか報じなくなっていた時に、はじめて両論併記でない、科学的にまっとうな報道をして下さったのがNHKでした。その後、いまだにちゃんと伝えていないメディアもありますが、世の中は着実に変わってきています。

この件を今後も報じない局もあるでしょうが、それでも世論を変えていくことはできるはずです。声をあげられるところから発していくことが重要ですので、今回こちらでも取り上げました。

日本は性犯罪歴がある人が子どもに関わる仕事に就くことを制限する法律がありません。子ども家庭庁が取り組もうとしていますが、早急な議論を求めます。

内閣府の性被害予防啓発のポスターがデザインの問題で取り下げとなったことが報じられていました。子どもたちを性被害から守るために、ひいては社会全体から性被害をなくしていくために、啓発も大事ですが、あわせて、教育と法律・制度のアップデートも必須です。

追記:本原稿執筆後に、他局でも本件を報じたことが確認されました。少しずつ社会が良い方向へ変化していることを実感します。

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[包括的性教育][性的同意年齢][メディアの忖度]

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