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【識者の眼】「日本は子どもに冷たい国?」勝田友博

No.5164 (2023年04月15日発行) P.56

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2023-04-04

最終更新日: 2023-04-04

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わが国では親子がベビーカーを畳まずにそのまま電車やバスなどの公共交通機関に乗ることの是非がしばしば議論となる。小児科医である筆者としては、遠慮なくベビーカーを畳まずに乗車してほしいと思うが、混雑時は周りに配慮すべき、最初から畳んで乗車すべき、など多様な意見があることも承知している。わが国の電車やバスは、特に都心部のラッシュアワーなどにおいては大変な混雑を認めるため、「欧米と比較して日本は……」という、よく用いられる表現で単純に片付けることはできない。

それでも、筆者は米国在住時にいくつかの印象的な経験をした。例えばスクールバスが停車して子どもたちが乗降している間は、そのバスを横から追い抜くことが禁止されており、住民は当然のように子どもたちの乗降が終わるのを気長に待っていた。また、成人である私が歩行者として道を横断しようとすると、ほとんどの車が停車して横断をさせてくれた。勿論、そのような法律があり違反すると罰金が科されるという事情もあるが、日本の道路交通法上でも、ほぼ同様の罰則があるにもかかわらず、歩行者のために停車してくれる日本人ドライバーは米国と比べて明らかに少ない。

わが国は2023年5月8日から、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の感染症法上の分類をそれまでの2類相当から5類に変更することが決定しており、既に様々な状況において徐々に感染予防策の緩和が進められている。一定の予防接種率を既に達成し、既往感染者の全人口に占める割合も3割を超えており、内服を含む複数の抗ウイルス薬の開発が完了した成人については、万全の準備のもとで5月を迎えることになる。これと比較して、小児においては、2023年3月24日時点における国内の5〜11歳、6カ月〜4歳におけるCOVID-19ワクチン3回接種完了率はそれぞれ、9.2%、1.6%と低率のままであり、12歳未満に使用できる内服の抗ウイルス薬はない。

小児におけるCOVID-19の重症化のリスクは高齢者と比較し明らかに低率であり、小児に対する健康行動や方針決定はそのような臨床情報を根拠に決定されているものと推察される。実際、筆者の周りにも小児を対象としたCOVID-19ワクチン接種に慎重な意見を有する小児科医も存在する。一方で、国立感染症研究所の報告によると、国内においては2022年1〜9月の9カ月間に20歳未満の小児62人がCOVID-19で亡くなっている1)。国内成人患者における死亡者数は既に7万人を超えており、小児における死亡者数は成人と比較して明らかに少ないのは事実であるが、イチ小児科医としては決して62人「しか」亡くなっていない、とは言い難い。子どもに焦点を当てた十分な議論に基づく方針決定と、子どもの存在を忘れて議論された方針決定はその意味合いが大きく異なる。今後も国内COVID-19対応策を議論する上で、小児に焦点を当てた議論に割く時間も忘れずに確保していただきたい。是非、日本が子どもにも優しい国であってほしい。

【文献】

1)国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報). 2022.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/559-cfeir/11727-20.html

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[新型コロナウイルス感染症][感染予防策の緩和]

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