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【識者の眼】「新薬創出加算は本来のイノベーションに立ち返った評価を」坂巻弘之

No.5158 (2023年03月04日発行) P.64

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2023-02-21

最終更新日: 2023-02-21

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2023(令和5)年度の薬価改定(中間年改定)において、新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)に対して臨時的・特例的な措置を講じることが決定した。すなわち、ルール通りに加算を適用しても薬価が下がる150品目について、2023年度に限り、現行薬価との差額の95%が補填されることになった。

新薬創出加算は、2010(平成22)年に「試行的導入」が行われたものである。市場実勢価に基づき薬価改定をするとの法的な枠組みに踏み込まず、特許期間中の新薬について、加算により薬価を維持する仕組みとして導入された。当初の対象は、当時喫緊の課題とされた適応外薬や革新的新薬の開発に取り組む企業が上市する新薬(企業要件)、乖離率が全既収載医薬品の加重平均乖離率を超えない新薬(品目要件)であった。その後、薬価制度改革のたびに企業・品目要件は厳しくなる一方で、試行的導入の位置づけは、現在も変更されていない。

製薬企業は、新薬創出加算が有用性の高い新薬上市に有効であったとする一方で、近年はその効果が薄れているとの問題意識を示している。そこで、企業要件の撤廃や、品目要件の緩和などを議論の俎上に挙げている。ただし、企業要件を外すことで新薬開発のインセンティブを弱めることにならないかとの懸念が持たれるとともに、品目要件まで緩和するとなると、加算の根拠なしに価格を維持するのかという問題が生じてくる。

新薬の価格維持に関する本来の目的は、イノベーションを適切に評価し、その評価が維持されることにあるはずだ。その上で、価格維持手段については、①市場実勢価に基づく薬価改定の根拠法を改正して価格維持、②市場実勢価が下がる流通の仕組みの見直し、③現行の加算制度の見直し─という3つが考えられる。

現行制度の見直しは現実的な対応にならざるを得ない面があるが、そうであったとしても、上述の加算の根拠については議論すべきである。また、現行制度の品目要件の一つに「画期性加算、有用性加算」の対象となっていることがある。有用性の高い新薬を対象にするなら、その有用性評価のあり方なども議論することが必要になる。今回の措置は、2023年度に限った臨時的・特例的なものとはいえ、イノベーション評価の本来の考え方に立ちかえった議論が必要と考える。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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