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【識者の眼】「病院を支えるICT、DXへの取り組み」杉村和朗

No.5158 (2023年03月04日発行) P.59

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-02-14

最終更新日: 2023-02-14

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学生時代、略語を戒められた経験がある。病棟の医師達が使っている略語をまねて、「MSの患者です」と発表すると、循環器ではMSはmitral stenosisを思い浮かべるが、神経内科ではmultiple sclerosisを意味する。その他にもMSという略語を使う疾患はいくつもあるので誤解を招く。省略する時には必ずフルネームを言うようにと教えられた。

最近の報道を見ると、やたらと略語が多く、フルネームで説明されているほうが少ない。クイズ番組でこの略語は何を意味しますかという質問で、正答率が低いとほっとしたりする。特にIT(information technology)、ICT(information and communication technology)領域で略語が氾濫しており、いささか辟易する。随分前だが、ITをイットと発音した元首相に親近感を覚えてしまう。

様々な略語の中で、比較的馴染みがあるのがAI(Artificial Intelligence)である。放射線領域においてもAI技術が欠かせなくなり、画像診断ではAI技術を用いた診断支援が役立っている。昨年の診療報酬改定では、AIを用いた読影支援に初めて点数がつけられた。今後も問診や患者対応はもとより様々な領域で、気がつかないうちに用いられ、欠くことのできない技術になっていくであろう。

それに加えて、最新のITツールやデジタル技術を活用して業務効率化や生産性向上を実現し、人々の生活を豊かにする取り組みを指すDX(digital transformation)が急速に広がっている。激増する業務量を少ない医療人で賄っている医療現場では、DXを用いた効率化が必須である。しかしながら極端に不足して日本中で取り合いになっているICTの専門家を医療業界、自治体で確保することはきわめて難しい。もちろん専門的知識が必要な部署ではあるが、まずは現場をよく知った医療人の中でICTの知識に長けた人材を集めて、病院に役立つ医療情報体制を構築していくような対策を進めていこうと考えている。

それに加えて便利さと表裏一体にあるサイバーテロにも対応しなければならない。略語でついついごまかしたり、ごまかされたりしているが、気がついたら何周回遅れというようにならないような本気度と知恵が求められる。ICT、DXへの対応力が、今後の病院運営で大きな差になってくると覚悟している。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[医療用語の略語][医療DX]

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