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【識者の眼】「独立した調査委員会の重要性について」堀 有伸

No.5157 (2023年02月25日発行) P.62

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2023-02-08

最終更新日: 2023-02-08

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ウクライナ情勢が長引いていることなどを受けて、電気料金等が大幅に値上がりしました。それと関連して原子力発電所を再稼働させるべきではないのか、という意見も聞こえます。一方で、日本国民は2011年の福島第一原子力発電所事故を経験したこともあり、また、世界で唯一の被爆国でもあるという事情から、それに対して慎重な態度を示す人が多いように感じています。

震災後に縁があって福島県で私は働いているのですが、興味をもって原発事故に関することをいろいろと調べました。その中で最も衝撃を受けたことの1つは、国会の事故調査委員会の委員長を務められた黒川清先生の著作にあった、次のような記述でした。「そもそも、国を揺るがす大事故や大事件が起きた時には、立法府が独立した調査委員会を作るのが当然のプロセスである」。しかし、日本でそのような委員会が設立されたのは、原発事故に関するものが憲政史上はじめてだったのです。黒川先生がある国際会議でそのことについて発言した時のイギリスの関係者の発言は、「憲政史上初とは信じられない。イギリスでは年に2〜3の重要な案件についての独立調査委員会が進行している」というもので、他の先進国の関係者も同様だったそうです。そう言われれば、たとえば今後日本のコロナ対策について検証する独立の調査委員会が、国会主導で立ち上がるという空気があるようには感じられません。

「学問的に検証された共通認識を作っていく」「共通認識が作られた後には、そのことを前提にして議論を行う」ことが、私たちは苦手なのかもしれません。たとえば国会の事故調査委員会の報告書には、電気事業者とその規制・監督を行う公的機関との関係性に問題があったことが指摘されていました。しかし、その後の関連した裁判の判決等に、その調査委員会の報告書が十分に影響を与えているかどうかには、疑問が残る状況となっています。

情報が少ない中での決断には、独断に近いものが出現しても仕方がない面があります。問題は、その後にそれが学問的な検証を経て、適切に修正されていくか否かという点です。これは、あらゆる立場の人(政府等を批判する立場の人も当然含まれます)に求められる姿勢だと考えます。

【参考文献】

▶黒川清:規制の虜 グループシンクが日本を滅ぼす. 講談社, 2016,

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[調査委員会][原子力発電所事故][政策決定]

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