日本糖尿病協会「スティグマを生じやすい糖尿病医療用語と代替案」
日本糖尿病協会が、昨年11月、糖尿病の病名を変更する方針を発表した。同協会は、関連する言葉の見直しにも着手している。病名変更と関連用語の見直しを提案した背景について、同協会理事長の清野裕氏に聞いた。
病名変更などを提案した理由は大きく2つあります。1つは、血糖値は高いけれども尿に糖が出ない人もいるなど病名が実態に合わないことが分かってきたからです。
かつて日本では、糖尿病のことを「消渇」、あるいは「飲水病」と呼んでいました。世界的には、トルコの医師アルテウスが、糖尿病の人の症状をみて、ラテン語でサイフォンを意味する「ダイヤベテス」という病名をつけました。英語ではdiabetesと呼びますが、フランス、ドイツなどでも同じような言葉が当てられています。
その中で、オランダだけが、尿と洪水を意味する「pisvloed」という独特の病名をつけました。日本はオランダ医学が盛んだったので、江戸時代にはそれを日本語に訳した「尿崩」という言葉が使われていました。
その後、糖尿病のある人の尿が甘いことから「蜜尿病」など様々な名前で呼ばれましたが、1907年に日本内科学会が「糖尿病」に統一しました。当時はまだ血糖値が測れず、尿糖などで診断していたとみられるので、この時点で糖尿病としたのは間違いではなかったと思います。
ところが、血糖値が測れるようになり、糖尿病でも血糖値は高いけれども尿に糖が出ない人や、尿に糖が出るけど血糖値は低い人がいるなど、尿糖では診断ができない病気だと分かってきました。
糖尿病の診断基準は尿糖ではなく、血糖値を基準にしています。国際的な定義も「慢性の持続的な高血糖」であって、尿という言葉は一切使われていません。糖尿病という病名を使っているのは日本と韓国、中国、台湾ぐらいです。尿糖なら糖尿病かというとそうではないので、科学的に病名を見直す必要が出てきたということです。